「第1章海洋についての基礎 1.その他の海の諸相」のところで、「潮汐」と「潮流」、そして「潮流」とはよく似ていますが、対象が別の「海流」についてすでに説明してあります。第 8 章ではこれらを用いた発電技術をまとめて取り扱います。今回は「潮汐」を利用した発電の原理について解説します。
潮汐発電とは
地球と月・太陽との引力に起因して、1 日に 2 回、12 時間 25 分という周期で潮汐が発生します(図 8-1-1)。この干満差を利用して発電しようという技術が「潮汐発電(tidal barrage)」です。


潮汐発電では外海とダムによって隔てられた貯水池に、潮汐現象を利用して外海から海水を導入し、その水路でプロペラを回して発電しようというもので、いくつかの方式があります。
- 1 貯水池1方向式発電(図 8-1-2):一つの貯水池に対して海水を取り入れる/排出するという一方向の流れを利用して発電する方式。上潮時に水門を開け、貯水池に海水を取り入れ、満潮時に水門を閉め、干潮になるまで待って、水位差を利用して発電する干潮時発電(例:カナダのアンナポリス発電所)と貯水池側を低水位に保ち、外海側が高水位になったら両者の水位差を利用して発電する満潮時発電(例:韓国シファ発電所)の 2 方式がある。
- 2 貯水池 2 方向式発電:満潮時には外海→貯水池、干潮時には貯水池→外海と双方向の流れを利用して発電する方式。例:フランスのランス発電所
この他、2 貯水池 1 方向式発電というのもありますが、これは効率が悪く、使われていません。
潮汐発電の原理
では、干潮時発電を例に潮汐発電で獲得できるエネルギー量と理論出力を求める式を導出してみましょう(図 8-1-3)。
干潮時発電の最大獲得エネルギー量
満潮時に蓄えられた海水で左側の貯水池の水位が高くなっています。干潮時に干満差は最大値 \(H\) に達します。水門を開けて海水を外海に放流し、水路のプロペラを回して発電します。

左側に蓄えられた海水のポテンシャルエネルギーが水路における水の流れという運動エネルギーに変わり、そして電気エネルギーへと変換されているのですね。ですから、電気エネルギーの源は蓄えられた海水が持つポテンシャルエネルギー \(E_P\) となります。このエネルギーは、貯水池の面積を \(A\)、海水密度を \(\rho\)、最大干満差を \(H\)、重力加速度 \(g\)とすると、(1)式の様に表せます。
$$E_P=\frac{AρgH^{2}}{2} \tag{1}$$
これが潮汐発電で獲得可能な最大エネルギーです。
干潮時発電の理論出力
ではつぎに干潮時発電の理論出力 \(P_{th}\)を求めて見ましょう。出力の単位はワット \([W]\) で、\(W=J/s\) ですから、「単位時間当たりのエネルギー」のことですね。先ほどの(1)式のエネルギーを発電している時間 \(t\) で割ればよいことになります。\(P_{th}\) の上に棒線を引いているのは平均値であることを意味しています。
$$ \overline{P_{th}}=E_P/t =\frac{AρgH^{2}}{2t} \tag{2}$$
海水の比重を \(ρ=1025 kg/m^3\)、重力加速度を \(g=9.81 m/s^2\) とします。発電時間ですが、干潮時だけ発電するので潮汐周期の半分、つまり \(t=\frac{12h 25min}{2}=6h 12.5 min= 22,350 s\)。これらを(2)式に代入すると、
$$ \overline{P_{th}}=\frac{(1025×9.81)}{44,700} AH^2 \tag{3}$$
$$ \overline{P_{th}}=0.225AH^2 [W] \tag{4}$$
これに効率\(η\)を掛けると、発電出力の平均値は(5)式のようになります。
$$ \overline{P}=0.225ηAH^2 [W] \tag{5}$$
つまり、貯水池の面積 \(A\) と最大干満差 \(H\) の関数です。最大干満差は二乗で効いてきますので、出力は最大干満差によって大きく左右され、大きなところほど適地となります。次回、世界のどこで最大干満差が大きいのかについて検討し、潮汐発電の導入例について調べましょう。
(更新 2022/10/25)