このコラムでは、これまでの海洋バイオマスを取り出しエネルギー利用するという話から、海洋バイオマスを海で増加させて、海の炭素固定量を増やすという吸収源としての利用の話をします。藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素のことを「ブルーカーボン」と呼んでいます。
この呼び名は 2009 年 10 月に国連環境計画(UNEP)の報告書 “Blue Carbon” において、海洋生物によって海洋生態系に取り込まれた炭素を「ブルーカーボン」と命名したことから始まります。陸地で生物に吸収される炭素は「グリーンカーボン」で、海中で生物によって吸収される炭素が「ブルーカーボン」ということになります。
このコラムでは、「日本の浅海生態系によってどのくらいの CO2 が吸収できるのか」についての調査結果を紹介しましょう。
まず、図コラム 10.2 に示すのが、地球全体の炭素の流れです。人間の活動で大気中に排出された炭素が 94 億トン/年、このうち森林など陸で吸収される分が 19 億トン/年、海域に吸収される分が 25 億トン/年となり、残りの 51 億トンが大気中に残存することになるわけです。
さて、海洋に吸収された CO2 は溶けているだけで、大気と平衡にあり、海温が上昇すれば、大気中に放出されるのですが、年間 2.4 億トンの炭素がブルーカーボンとして海底に埋没し貯留されると推定されています。そして、この海底泥中に貯留されたブルーカーボンは数千年程度は分解されず、保存性が極めて高いのです。さらに、その約 8 割の 1.9 億トンは沿岸の浅海域が占めているという報告があります。
では、日本の沿岸生態系にはどのくらいの CO2 が吸収されているのか? それに関する調査結果が以下です。
これによれば、年間の平均 CO2 吸収量は、海草藻場が 30 万トンCO2/年、海藻藻場が 71 万トントン CO2/年、マングローブが 18 万トン CO2/年、干潟が 12 万トン CO2/年で合計 132 万トン CO2/年となります。これは日本の CO2 排出量の 0.1 % 程度です。先ほどの図コラム 10.2 では世界全体では浅海域に平均 2 % が固定されることになっていましたが、日本の場合はずっと少ないですね。これから沿岸部分の開発が進むと吸収量がさらに減少していくことが危惧されます。