潮汐発電の出力は最大潮位差の 2 乗に比例することを学びました。今回は、どんな場所で潮位差が大きいのか、どこで潮汐発電が行われているのかについて調べ、最後に潮汐発電の長所と短所について考えます。
世界の潮位分布
潮汐は月・太陽と地球間の引力によって引き起こされ、海水を動かす「水平力」は中緯度で最も大きくなりますが、潮位の差については海水の移動経路の海岸や海底の地形の影響を強く受けています。図 8-2-1 には世界の潮位分布が示されています。南北緯 30 ~ 60 度付近に潮位の大きなゾーン(オレンジ色)があることがわかります。表には潮位の大きな順に番号が打ってあり、その場所を地図にも記載しています。世界最大の潮位差はカナダ東岸のファンディ湾①で観測されていて、なんと 16 m にも達しています。また、英仏海峡付近②③にも 10 m を超える潮位差のある場所があります。東アジアでは韓国の仁川湾⑤や中国の杭州湾⑨が大きいです。日本で潮位差が最大となる場所は有明湾ですが、6 m 程度とだいぶ小さいですね。

世界の潮汐発電所
現在、稼働中の潮汐発電所を図 8-2-2 に示しました。ここには、年平均潮位差、貯水池面積、発電設備容量などのデータを記載しています。右から 2 つめのカラムに \(P_{th}\) があります。これは理論出力で、前回の(4)式を用いて年平均潮位差と貯水地面積から計算したものです。理論出力に効率 \(\eta\) を掛けたものが実際の出力ですから、効率は次式で計算され、実際には 20 ~ 40 % の間にあり、理論計算では 33 % がよく用いられています。
$$ \eta=P/P_{th} \tag{6} $$
そこで、それぞれの発電所の「設備容量」を\(P_{th}\)で割ってみました(一番右のカラム)。100 % の性能を発揮したときの出力が設備容量ですから、これで効率 \(\eta\) が求められるはずです。潮位差が大きいほど効率が高くなっていますね。なお、始華湖の値が変ですが、その理由は不明です。

それにしても、大きな貯水地が必要ですね。ランス発電所の出力密度を計算すると、5.6 W / m2となり、再生可能エネルギーでは低いわけではありません(第4章 再生可能エネルギー 4.4 再生可能エネルギーの特徴と課題)が、極めて大規模な設備が必要なのです。これが潮汐発電の一番の問題です。
代表例としてランス発電所を見てみましょう(図 8-2-3)。フランスの北西部のランス川の河口から 4 km 上流に発電所があります。750 m にわたり高さ 13 m の堤防を設け、この中央部 330 m に 24 基のタービン発電機が設置されています。左下の写真が遠景ですが、なかなか壮観ですね。これだ大規模だと設備投資に躊躇します。なお、韓国の始華湖発電所はもともと農地と工業用地造成のために行われた干拓事業で行われた人工湖で淡水の貯水地として使用する予定だったものが、水質悪化等の問題のために貯水地として使えなくなり、水門を開放して潮汐発電所としたものだそうです。

潮汐発電の長所と短所
潮汐発電の長所と短所をまとめてみました。
長所
- 周期的な現象で予測可能
- クリーンで再生可能
- 維持コストが小さい(限界費用大きい)
- 他の再生可能エネルギーに較べ、エネルギー密度が比較的大きい
短所
- 初期投資が大きく、発電所の建設に時間がかかる
- 実際の発電時間が短い
- 適地が少なく、電力消費地から遠く離れている
- 生態系への影響(魚の回遊等)
- 堆積状態の変化
潮汐発電は太陽光や風力とは違って、潮汐という周期的現象を取り扱っているので予測可能であることが大きなポイントです。一方で潮位差が大きな場所がそれほどないこと、初期投資が極めて大きくなることが欠点です。一般に最大潮位差 5 m 以上が実用化の目安とされています。諸外国には 10 m 以上の最大潮位差が得られる地点が存在するのに対し、日本では最も好条件の有明海でも最大潮位差が湾入り口で 3 m、湾奥部で 6 m 程度であり、ポテンシャルは小さいとされています。このため、国内で稼働しているプラントはありませんし、検討例も少なく、次に述べる潮流発電が中心となっています。
(更新 2022/10/25)