つぎに潮汐に伴って引き起こされる海水の流れ、つまり「潮流」を利用した発電技術に関して調べていきます。
潮流発電とは
図 8-3-1 を見て下さい。細い線が潮汐のグラフで 1 日のうちで潮位が 2 回上がったり下がったりします。太線は佐世保港の港口の様子ですが、潮汐に伴い東側に向けての流れと西側に向けての流れ(潮流)が 1 日に 2 回発生していることが分かります。海流が一方向に流れるのに対し、潮流は干潮から満潮に向けての流れ(上げ潮)と満潮から干潮に向けての流れ(下げ潮)では逆向きになります。潮流の流速は大潮・小潮といった潮汐の大きさによって変わるのは勿論ですが、地形の影響を大きく受け、海峡や水道など流路の幅が狭い地点で大きくなります。この潮流の運動エネルギーを利用し、一般的には水車によって回転エネルギーに変換して発電する方式が潮流発電です。

潮流発電の特徴をまとめると次の様になります。
- 再生可能エネルギーであり、発電時に CO2を発生させない
- 潮流発電は 1 日 2 回、定まった場所で一定量のエネルギーを得ることができる
- 「流れ」を利用して発電するのは水力、風力と同じであり、技術はさほど難しくはない。
- 陸地に近い場所であることから、海流よりも扱い易い
風力や太陽光とは異なり、発電できる時間と大きさが予測できる点が大きなメリットです。一方、1 日中発電できるわけではないので、うまく発電計画に組み入れていく必要があります。海流とは違い、流れの場所が陸地に近いので、送電ケーブルが短くて済み、扱い易いことも利点です。
潮流発電の出力
さて、「流れを利用して発電するのは水力、風力と同じであり、技術はさほど難しくはない」と書きましたが、この点について考えていきましょう。
潮流が発生する場所に水車を設置します。なお、途中で流れの方向が反転しますから、双方向で流れを受ける仕組みを入れておく必要があります。すると、流体の持つパワーは風力発電のところで見たように、流体を受ける面積を \(A\)、流体の速度を \(u\)、流体の密度を \(\rho\) とすると(7)式で表されます。
$$ P=1/2 ρAu^3 \tag{7}$$
ここで流速が一定ではなく、図 8-3-1 の様に周期的に変化していきますので、潮流の単位面積当たりの平均パワー \(\overline{P}\)は、\(A=1\) として、つぎの二つの式の様になります。
$$ \overline{P}≃0.42×1/2ρ U_{max}^{3}=431 U_{max}^{3} \tag{8}$$
$$ \overline{P}≃1.64×1/2ρ \overline{u}^{3}=1681 \overline{u}^{3} \tag{9}$$
(8) 式は最大流速 \(U_{max}\) で表したもの、(9)式は平気流速 \(\overline{u}\) を使った式です。これにに大潮・小潮を考慮した補正係数 0.57 を掛け、海水の密度を \(1025 kg/m^3\) とすると、最大流速の場合には (10) 式が得られます。
$$ \overline{P} ≃0.42×0.57×1/2ρ U_{max}^3=123 U_{max}^3 \tag{10} $$
潮流エネルギーのパワーから潮流発電の出力を計算するには、受水面積 \(A\) と効率 \(\eta\) を掛ければよく、最大流速を用いる場合では(11)式の様になります。
$$ \overline{P_E} ≃123ρA U_{max}^3 \tag{11} $$
ここで効率 \(\rho\) は風力発電と同様、0.3 ~ 0.4 となりますので、これを代入して(12)式の様にまとめられます。
$$ \overline{P_E} =37A U_{max}^3 ~49AU_{max}^3 \tag{12}$$
潮流エネルギーのポテンシャル
では、(10)式を用いて日本の潮流エネルギーのポテンシャルを計算してみましょう。流速が大きな日本の主なポイント(海峡・水道・瀬戸など)のデータを図 8-3-2 に示します。最大流速から単位面積当たりのパワーを計算しますと、例えば鳴門海峡では(10)式の計算結果は 17.8 kW / m2 となり、表の 17.49 kW / m2 とほぼ一致しています。断面積を 3 / 4 ×海峡幅×最大水深として台形近似して、数値を代入すると賦存量(ポテンシャル)の 455 MW が再現できます。このようにして、日本のいろいろな地点での潮流エネルギーのポテンシャルが計算できます。


また図 8-3-3 のように、 NEDO では津軽海峡を除いて日本の潮流エネルギーの値を約 2 GW としていますが、これは先ほどの表から津軽海峡を除いた 2.2 GW とほぼ一致しています。なぜ、この図に津軽海峡が入っていないのかはよく分かりません。
参考文献
近藤俶郎編著 「海洋エネルギー利用技術 第 2 版」森北出版
(更新 2022/10/26)