第2章海洋と気候変動 2.4 気候システムとそれに影響を及ぼす要因

 いよいよ本章の核心である「どのような要因によって気候が変化するのか?」という問題に入っていきます。まず、気候と関係する様々な要素をまとめた「気候システム」について説明し、続いて「気候システム」に影響を及ぼす外部因子としてはどのようなものがあり、それぞれの影響の大きさはどの程度なのかについて調べていきす。

気候システム

 「気候」は大気の平均的な状態を表すものですが、大気の変化には図 2.4 に示すように、海洋、陸面、雪氷などが 深くかかわっており、それぞれの間でエネルギーや、水・その他の物質をやりとりしながら複雑に相互作用しています。ですから、「気候」を考える際には、これらの要素全体を一つのシステムとして捉えて総合的に検討していくことが必要なのです。これらの気候に関する要素全体を気候システム(Climate system)と呼んでいます。IPCC の第 5 次評価報告書では気候システムについてつぎのように説明しています。

図 2.4 気候システムを構成する要素とその相互作用
出典:気象庁 https://www.mri-jma.go.jp/Dep/cl/cl4/ondanka/text/1-1.html

 気候システムは高度に複雑なシステムであり、大気(atmosphere)、水圏(hydrosphere)、雪氷圏(cryosphere)、陸面(lithosphere)、および生物圏(biosphere)5 つの主要な要素(components)とそれらの相互作用からなっている。気候システムは、気候系内部の動き(dynamics)の影響を受けるとともに、例えば火山の噴火、太陽活動の変動、及び人為的強制(大気組成の変化や地利用変化など)といった外部からの強制(forcings)のせいで時間とともに変化する。

IPCC第5次評価報告書

 ここで強制(強制力ともいう、forcings)という耳慣れない言葉がでてきましたが、これは気候システムの外にあって一方的に気候に影響を与える因子のことです。

気候に影響を与える主な要因

 まとめますと、気候に影響を与える要因としては気候システム内部のものと、外部からの強制があります。表 2.2 にその主なものをまとめています。 気候システムは定常的に安定しているかというと決してそうではなく、安定状態のまわりで変動しているのです。このゆらぎが気候を決める内部要因で、例えばエルニーニョやラナーニョなどの気候変動現象を引き起こす原因となります。これに対して、太陽からの放射量の変化や前述の温室効果の変化などの外部要因があります。この外部要因(強制)は太陽活動や地球公転の変動、火山の噴火によるエーロゾルなどの排出などの自然起源のものと、温室効果ガスやエーロゾルの排出、土地利用の変化などの人為起源のものに分けられます。

表2.2 気候を決める主な要因
出典: 環境省 IPCC report communicator 基礎知識編 WG1
https://ondankataisaku.env.go.jp/communicator/download/show/64

 図 2.5 はこれらの外部要因がどのように気候システムに影響しているかについてわかりやすく説明しています。すべては太陽の放射から始まっています。太陽の放射量が変化すれば当然のことながら気候は変化します。続いてエーロゾルの日傘効果温室効果、そして地表アルベドの変化が気候に影響します。順に見ていきましょう。

図2.5 気候に影響を及ぼす外部要因
出典:気象庁
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/
climate_change/2014/pdf/2014_APDX_A.pdf

 まず、太陽放射の自然変動ですが、太陽にはほぼ 11 年周期で 黒点が現れ、放射エネルギーも周期的に変動していると考えられています。また、地球の公転軌道の離心率の周期的変化、自転軸の傾きの周期的変化、自転軸の歳差運動によって日射量が周期的に変動するミランコビッチサイクルが知られています。

  エーロゾルとは、 半径が 0.001 マイクロメートル ~ 10 マイクロメートル程度の空気中に浮遊する固体や液体の微粒子です。 化石燃料やバイオマスの燃焼から放出される「すす」などの人為起源のものと、 風によって巻き上げられる海塩や黄砂粒子などの自然起源のものがあります。エーロゾルには温室効果もありますが、太陽放射を散乱・吸収して地上に到達する日射量を減少させる働き(これを日傘効果という)を起こします。

 温室効果についてはすでにふれましたので、最後のアルベドの変化について説明しましょう。アルベド( albedo )とは太陽の入射光に対する反射光の比で、反射能とも呼ばれます。第 1 章でお話しました様に、太陽放射のうちの 31 % は反射して地球から出ていってしまいます。ですから、地球のアルベドは 31 %ということになります。アルベドが大きくなると地表に到達する太陽放射が小さくなるので地球は冷えていきます。アルベドが 1 % 増減すると平均気温が 1 ℃ほど増減します。植生、陸面状態、積雪、海氷などが変化すれば、地表のアルベドが変化します。

放射強制力

 この様にさまざま要因が気候に影響を与えるわけですが、では「気候変動」については特にどれに注目すればいいのでしょうか? IPCCの第 5 次評価報告書では、さまざまな要因について放射強制力 (radiation forcing) の大きさを評価しています(図 2.6)。

図2.6 気温上昇の要因とその寄与
要因別の放射強制力は1750 年を基準とした 2011 年の推定値
IPCC第5次評価報告書第一作業部会報告書 日本政府翻訳

 また耳慣れない言葉が出てきました。放射強制力とは何でしょう? 大気中の CO2 濃度の変化、エアロゾル濃度の変化、雲分布の変化など、何らかの要因によって気候システムに変化が起こったとき、その要因が引き起こす放射エネルギー収支の変化量(単位:Wm-2)が放射強制力です

図1.4 地球のエネルギーバランス(年平均)
出典:環境省 IPCC Report Communicator
https://ondankataisaku.env.go.jp/communicator
/files/WG1_guidebook.pdf)

 もう一度図 1.4 に戻って説明します。図の一番上、つまり大気上端では、太陽放射によって 100 のエネルギーが入り、太陽放射の反射で 31、長波放射で 69 、合計 100 のエネルギーが宇宙へ出て行きます。この「入」と「出」が差し引きゼロというのが平衡状態での放射エネルギー収支です。いま太陽の照度が増加する場合を考えます。 太陽照度が増えると地球系に入射する放射エネルギーが増加し、放射エネルギーの収支が照度の増加した分、収支はプラスになります。これが「正」の放射強制力です。その後、熱せられた大気からの長波放射が増え、最終的には再び収支ゼロの平衡状態に戻っていきますが、もとの状態に比べて気温が上昇することになります。

 この放射強制力の大きさを要因別に調べることで、気候変化への寄与を推定できます。図 2.6 は 1750 年に比べて、2011 年ではどのくらい放射強制力が変化したかを要因別に棒グラフで示したものです。では、どのように放射強制力を求めているのでしょうか?  CO2 を例に説明しましょう。まず 1750 年時点の地球大気の構造と地表面温度を仮定します。つぎに 1750 年と 2011 年の CO2 量を与え、コンピュータの気候モデルを用いて、それぞれの場合の太陽放射と長波放射の収支を大気上端(あるいは対流圏界面)で計算し、その差を放射強制力するのです。2011 年の方が大気中の CO2 濃度が大きいため、上向きの長波放射が減少し「正」の放射強制力となります。この様なことをそれぞれの要因毎に行って、放射強制力を求めた結果が図 2.6 です。

 外部からの強制には自然起源(natural)人為起源(anthropogenic)の要因がありますが、図 2.6 を見れば、圧倒的に人為起源の放射強制力が大きいことが分かります。その中でも影響が大きいのが、CO2 などの温室効果ガス、そしてエーロゾルと前駆物質です。温室効果ガスは放射強制力を大きくする(すなわち、気温上昇の)方向、エーロゾルなどは小さくする(気温下降の)方向に働きます。図 2.6 の下には、人為起源の放射強制力が1950 年、1980年、2011年とどんどん大きくなっていることが示されています。

(更新 2020/10/01)

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