第6章 洋上風力発電 6.1 洋上風力発電とはどんな技術か?

   

 いよいよ海洋エネルギ・資源の各論に入ります。この第 6 章では洋上風力発電について考えます。海洋再生可能エネルギーの中でもっとも開発が進んでいて、これから世界的に導入が加速されると予想されている洋上風力発電。わが国の 2050 年カーボン・ニュートラルの達成のためにもなくてはならないメニューです。しかし、導入がさかんな欧州と日本とでは条件が違います。日本が洋上風力を拡大させていくためには、解決すべき課題も多いのです。第 6 章では洋上風力発電とはどんな技術か、洋上風力と陸上風力は何が違うのか、わが国のポテンシャル、世界の動向、日本の動向、日本における洋上風力の課題と解決に向けてと、この順に考えていきたいと思います。まず、最初に 洋上風力発電とはどんな技術か、洋上風力と陸上風力とは何が違うのか調べてみましょう。

風力発電のおさらい

 風力発電の原理については、すでに 「4.3 力学的エネルギーの変換 風力発電」で説明ずみです。もういちど要点をおさらいしておきましょう。箇条書きで書いて、その後で説明を加えます。

  1. 風力発電では「風」という空気の流れが持つエネルギー回転エネルギーに変え、さらに電気エネルギーに変換している
  2. 取り出せるパワー風の持つパワーの 30 ~ 40 % 程度であり、風速の 3 乗、ブレードが作る円の面積(受風面積)の 1 乗に比例する
  3. 風速は高い位置で大きくなり、障害物のない平地や海で大きくなる
  4. 風力発電のコストを下げるには、風況のよい場所に設置すること、設備を大きくして受風面積を大きくとるとともに受風位置を高くすることが効果的。高く、大きくが風力発電の歴史である
  5. 欧州などに比べて日本の風況はよくないが、洋上では風況のよい場所が広く分布している

 1 について:風にしろ潮流・海流にしろ、「流れ」にプロペラ(タービンという)を設置すれば、流れのエネルギーを回転エネルギーとして取り出せます。このとき回転する軸に発電機をとりつければ、回転エネルギーを電気エネルギーに変換できます。これが「風力発電」の原理です。

 2 について:風力発電のパワー \(P\)(時間当たりの発電量、電力)は(1)式で表されます。

 $$P=C_p \eta_{gb} \eta_g \frac{1}{2}\rho A v^3\tag{1}$$

 ここで、 \(A\) は 受風面積 で 1 秒間にブレード(羽根)が作る円の面積 。\(v \) は風速、\(\rho\) は空気の密度。 \(C_p\) はパワー係数と呼ばれる風から取り出すことのできるパワーの割合で最大で 0.5 程度の値 。さらに、 \(\eta_{gb} \) は増速機の効率、 \(\eta_g\) は発電機の効率です。これらを掛けると、実際に風力発電で取り出せる電力は風のパワーの 30 ~ 40 % 程度となります。(1)式 のポイントは発電のパワーが受風面積の 1 乗、風速の 3 乗に比例することです。つまり、 ブレード(羽根) が大きいほどパワーは大きくなりますが、それよりも、風速の影響が大きいので、風の強い場所を選ぶことが最も重要です。

 3 について:風速は地表の摩擦力の影響を受けます。地表から約 100 m の高さまでを地表境界と呼びますが、この領域では位置が高いほど摩擦力の影響が小さいため風速は大きく抵抗が少ない平野・海では高さによる風速の変化が小さいのです。従って、風車を設置するに当たっては、できるだけ風の強いなめらかな平地に設置し、高さを確保することが重要となります。

 4 について:「風況」とはその場所における風の性質のことです。風力発電において重要な風の性質には、平均風速、風速頻度分布、風向出現率、乱流強度などが挙げらます。風力発電のサイズと経済性については、図 4.8 に示してあります。

図4.8 風力発電のサイズと経済性 再掲

 5 について:風には年間を通して決まった方向に吹く「恒常風」と、季節によって風向きの変わる「季節風」、さらに、比較的狭い地域で発生する「局地風」があります。風を作り出すのは気圧差で、気圧の高い方から低い方へと空気が流れます。その気圧差の原因となるのは温度差です。温度の高いところでは上昇気流が起こって気圧が低くなり、温度が低いところでは空気が下降して気圧が高くなります。地球規模の温度差によって生み出されるのが恒常風で、北緯・南緯 30 ~ 5 度付近に吹く「貿易風」と北緯・南緯 30 ~ 65 度付近に吹く「偏西風」が代表的です(図 6-1)。恒常風の吹く地域は常に強い風が吹くので風力発電に適しています。風力発電が盛んな欧州はこの偏西風帯に位置します。一方、日本温帯モンスーン気候帯で、大陸と海との温度差によって、夏は海からの南東の風、冬には大陸からの北西の風という具合に季節風が吹きます。欧州と日本で洋上風力稼働・計画中海域の風況を比較した本武・立花らの研究によれば、欧州は、年間を通じて高い平均風速が得られ、さらに 12 月〜 3 月に風況が良く、中には月間平均風速が 12 m / sec を超え、評価地点での月間設備利用率が 60 % から 70 % 台になる地点もあり、加えて風況の良くない 12 月 〜 3 月でも多くの地点で 〜 9 m / sec の平均風速を記録しており、広大な海域が洋上風力発電に適しているが、一方、日本は、冬場の一時期は欧州並みだが、夏場の風況低下が大きいというモンスーン気候帯の風況となっていて、日本は 6 〜 9 月が風況低下が著しい、との事です。風況から推定される日本の風力発電設備の年間設備利用率が 35.4 %であるのに対し、欧州の場合は 54.6 % と 1.5 倍違うようです。それでも、陸域と洋上とでは風況は全く違い、日本海域では平均風速が大きな地域が多数出現します(図 4.7)。

図6-1 恒常風(偏西風・貿易風)と風の強い地域
図4.7 陸上風力と洋上風力の風速別賦存量 再掲

洋上風力と陸上風力の違い

 では、洋上風力とはどんな技術なのかみていきましょう。風力発電設備を岸より海側に設置するのが洋上風力です。英語では offshore wind といいますが、文字通り岸(shore)を離れる(off)のです。図 6-2 には洋上風力の代表的な方式を示しました。海の深さによって適する設置方式が変わります。この図どこかでみた覚えがありませんか? 似たような図をすでに説明しています。「第5章 海洋エネルギー概論 5.1 人はなぜ海に出るのか?」の図 5-2 です。そう、洋上の石油生産設備と同じなのです。洋上石油生産によって培った技術を風力発電に応用しているのです。

 海底に基礎(支持構造物)を作り、それに風車をとりつけたのが「着床式」です。水深がおよそ 30 m 以浅の海底に直径が 4 ~ 6 m 程度の大径 1 本杭(パイル)を打ち、基礎とするのが「モノパイル」で、現在、洋上風力の 70 % がこの方式です。1本杭で固定するので、大型には向きません。つぎの「ジャケット」は鋼管トラス型の支柱構造物で、4 本の脚に杭を打ち込んで固定します。モノパイルに対して剛性が高いため、大きなものに適用でき、かつ水深 50 m 程度まで使用できます。「トリポッド」は 3 本の杭で固定するもので、モノパイルとジャケットのハイブリッドです。これら着床式は水深が大きくなると極端に経済性が悪くなります。そこで使われるのが「浮体式」です。着床式と浮体式の閾となる水深はおよそ 50 ~ 60 m といわれています。

 つぎに浮体式ですが、「TLP(Tension Leg Platform)」は浮力体を強制的に半潜水させ、緊張した係留ラインで海底と結ぶもので、強制浮力によって生じる緊張力を利用して係留します。 「セミサブ(Semi-submergible)」は半潜水状態の浮体を係留するにあたって、係留ラインを緊張させるのではなく懸垂させる(カテナリー係留という)もので、浮体式の 94 % がこの方式です。 「スパー(Spar)」とは円柱のことで、垂直方向に長い円筒ブイ型の浮力体を用います。ブイの大部分が海面下に没しているため、深度が大きい沖合設置に適します。

図6-2 洋上風力の方式

 では、これらの洋上風力が陸上風力とどう違うか比較してみましょう。表 6-1です。まず、風況ですが、すでに述べたとおり、洋上風力の方が優れています。つぎに設備規模ですが、陸上風力は輸送の制約のため、巨大なものは作れません。最大サイズは 6 MW で、2.5 ~ 3 MW クラスが一般的です。日本では洋上風力設計の 5 MWを港湾の陸上部分に建設するという例がありました。船で運んできた大きな部材をどうやって建設現場まで陸上輸送するかが問題なのです。2.5 MW の風車でもブレードの長さは 44 m にもなりますから、特殊なトレーラーで運ばなくてはなりません。カーブでは図 6-3 の様にブレードを斜めに持ち上げてゆっくり進みます。必然的に輸送費が非常に高くなりますし、限界があります。洋上ではそのような問題が少なく巨大なものが建設でき、2019 年の導入平均サイズは 7.8 MW、最大サイズは 12 MW(2020年) で、さらに 15MW 級が作られようとしています。

表6-1 洋上風力と陸上風力の比較
図6-4 ブレードの陸上輸送
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:0133_2019-03_Goldhofer_FTV_300.jpg

 発電コストは支持構造物、施工、送電および維持管理の費用が陸上風力に比べ高いです。陸上風力発電に比べコストが 2 倍高くなる場合があります。このため、巨大化させることによってコスト低減を図ります。発電コスト(LCOE)が今後どのように低下していくのかについてのいろいろな研究結果をまとめたのが図 6-5 です。青い太い線が複数の結果をもとに作った回帰線ですが、着床式では 2030 年に50 米ドル / MWh を割り込み、化石燃料発電(50 ~ 170 米ドル / MWh)より安価になります。また、浮体式では 75 米ドル / MWh になると予測され、化石燃料発電の範囲に入ってきます。日本円に換算すると、1米ドル = 110 円とすると、2030年の発電コストは着床式が 5.5 円 / kWh、浮体式が 8.2 円 / kWhです。これに対し、2015 年の総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループが算出する 2030 年想定コスト(政策経費除く)は陸上風力が 12 円/kWh 、洋上風力が 20 円/kWhと 2 倍以上になっています。

図6-5 洋上風力のコスト

 最後に風力発電のサイズを超高層ビルと比較した図をお見せします。図 6.6 は日本一の超高層ビル「あべのハルカス」(高さ 300 m)との比較です。20 MW が 300 m です。まだ、ここまでは到達していませんが、すでに 250 m あたりまできているのですね。ひとつ引っかかったのは、浮体式の場合どの程度まで大型化できるのかという点です。セミサブやバージタイプなら 10 MW の風車も建設が予定されていますので、巨大化はあまり問題ないということになります。

図6-6 風力発電のサイズ(出典 IPCC SREENに筆者追記

 (更新 2021/09/21)

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