第6章 洋上風力発電 6.2 洋上風力のポテンシャル

 つぎに洋上風力のポテンシャルについてみてみましょう。風力発電のポテンシャルについては、すでに「4.1 再生可能エネルギーの種類とポテンシャル」、「5.2 海洋エネルギーのポテンシャル」でふれました。ここでは日本のポテンシャルに絞って考えて見たいと思います。

日本の洋上風力のポテンシャル

 日本の風力発電の導入ポテンシャル調査は、環境省と経産省で実施されてきました。ここでは環境省の「令和元年度再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報等の整備・公開等に関する委託業務報告書」のデータをもとに話を進めていこうと思います。この報告書は最新データへの更新がなされおり、風車の大型化に対応しているからです。

 報告書によれば、日本の風力発電の導入ポテンシャルは、陸上が 686 TWh / 年、 洋上が 3,461 TWh / 年 で、合計 4,147 TWh / 年です。TWh(テラワットアワー)は 109kWh です。 日本の発電量電力量は 1,171 TWh / 年(2018 年度)なので、風力発電のポテンシャルは一年間に発電する電力量の 3.5 倍もあることになります。そして、その 83 % は洋上風力です。これが全部開発できれば、日本のエネルギー問題は解決してしまいますね。CO2 を排出する火力発電も、放射能の危険性を秘めた原子力発電も不要です。でも、そう簡単にいくでしょうか? もう少し詳しく調べて、考えてみたいと思います。

 このポテンシャルの数字がどのように求められているのか調べて見ましょう。報告書には対応するパワー(発電設備容量)の数字もあります。陸上が 285 GW、洋上が 1,120 GW です。まずパワーを風速受風面積から求め(6-1 の 1 式)、これに年間の運転時間数(365×24)と利用率を掛け合わせると発電電力量の数字になります。風速のデータが公開されています。 たとえば、NEDO 洋上風況マップ NeoWins(図6-7)です。年間の平均風速をマップ化したもので、測定高度も 60 mから 10 MW 級風車相当の 140 m まで変えて見ることができます。環境省の導入ポテンシャル計算も NeoWins を使用しています。高度を変えて平均風速がどう変化するかみてみましょう。図 6-7 の左が高度 80 m、右側が 140 mです。高度が大きくなるとオレンジが減って、赤とピンクが増えてきます。つまり、平均風速が大きくなるのが読み取れます。

図6-7 日本の洋上風況マップ NEDO の NeoWins
(NeoWins:http://app10.infoc.nedo.go.jp/Nedo_Webgis/top.html)

 さて導入ポテンシャルを求めるにあたって、報告書ではさらにいくつかの条件(1 ~ 7)が設定されています。

  1. 風速:6.5 m / s 以上 ⇐風速の小さな場所は除外
  2. 離岸距離:陸地から 30 km 未満 ⇐送電の問題から岸から遠い場所は除外、この妥当性は?
  3. 水深 200 m 未満 ⇐係留ラインの問題? 妥当性は?
  4. 国立・国定公園を除く
  5. 10 MW 風車を設置
  6. 設置面積:8 MW / km2 ⇐ローター径より算出
  7. 着底式:水深 0 ~ 50 m、浮体式:50 m ~ ⇐6.1で見たとおりで妥当

 これらの条件を入れて、ポテンシャルの分布状況を表したのが図 6-8 です。図 6-7 と図 6-8 を見比べるときっと驚かれると思います。 図 6-7 にあった風の強いところの大部分が図 6-8 ではカットされているからです。これは条件 2 と条件 3 のせいです。 つまり、これは離岸距離が 30 km 未満でかつ水深が 200 m 未満の海域に限定されたポテンシャルなのです。図 6-8 で海岸線から 30 km の幅を持ってポテンシャルが分布しますが、それだけの幅がないところもあります。特に千葉から四国にかけての太平洋側で顕著です。北海道の積丹半島から南へ渡島半島西部かけても大幅にカットされています。これは条件 3 の水深 200 m のせいです。参考までに日本の海底地形図を図 6-9 に示しておきます。水深 200 m 以浅の領域が白いところですが、日本の海はすぐ深くなることがわかります。

図6-8 洋上風力導入ポテンシャルの分布状況 
出典: 環境省 令和元年度再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報等の整備・公開等に関する委託業務報告書
図6-9 日本の海底地形 出典:気象庁 https://www.jma-net.go.jp/jsmarine/japansea.html

 この「日本の海はすぐ深くなる」という特性は浅いところでも現れています。着床式と浮体式の閾値を水深 50 m にしていますが、日本の場合、着床式のポテンシャルが 337 GW、浮体式が 783 GWで、なんと浮体式が 70 % を占めるのです。北海やバルト海など水深の浅い沿岸部が多く、さらに北海の広さの 3 分の 2 が 50 〜 220 メートルの水深である欧州とはまったく異なる環境にあるといえます。

 報告書ではこの 離岸距離 30 km 未満の制約を外した場合のポテンシャルも計算されています。設備容量が 3,311 GW(着床式 408 GW、浮体式 2,903 GW)、発電電力量が 11,272 TWh / 年で、設備容量が制約をつけたときの 3 倍、発電電力量が 3.3 倍になります。この場合、導入ポテンシャルは現状の発電電力量の約 10 倍にまで上昇します。

 この離岸距離の制約陸上へ送電するためのケーブル費用に関係し、水深の制約支持構造物の係留に関係しているようです。洋上風力で発電した電気を使って洋上で水素を作るなどすれば、離岸制約は関係なくなりますし、石油開発では水深 2,000 m を超える大水深係留も開発されていますから、水深制約も外すことが期待されます。そうすれば、洋上風力のポテンシャルは莫大なものになりますね。問題は経済性ということになります。

地域別導入可能量

 報告書では地域毎にコストを考慮した「導入可能量」を計算しています。買取価格が 36 円 / kWh 以下の陸上・洋上風力の地域別の導入可能量と電力需要量を示したのが、図 6-10です。棒グラフは下から陸上風力(買取価格 17 円 ~ 19 円 / kWh)、買取価格 32 円 / kWhの着床式洋上風力、同浮体式、32 ~ 33 円 / kWhの着床式と浮体式、33 ~ 34 円 / kWhの着床式と浮体式の順に並んでいます。図の左側には日本全体の姿(需要合計 923 TWh のところに赤で線を引いています)も合わせて示しました。

図6-10 風力発電の地域別導入可能量と電力需要量
(出典 環境省資料等から筆者作成)

 日本全体で見ますと、36 円以下の風力発電のポテンシャルは需要合計の約 2 倍あります。需要量は丁度、買取価格が 32 円 / kWh の浮体式洋上風力のところになります。一方、右の地域別では、ポテンシャルが突出しているのは北海道と東北で需要量をはるかに上回り、買取価格が 19 円 / kWh 以下の陸上風力のみで需要を満たせますが、他の地域では陸上風力のみでは無理なことがわかります。 買取価格が 34~36 円 / kWh と陸上風力の約 2 倍高い洋上風力を動員すれば需要を満たせるのが、中部・四国・九州・沖縄で、それ以外の地域はこの価格条件ではポテンシャルが足りません。従って、北海道・東北の過剰な電力を他の地域へ送電するか、それぞれの地域でより沖合に出て行く必要があります。いずれにしてもさらにコストがかかります。

 6.1 でもふれましたが、それにしても日本の風力発電のコストは高いですね。風況の悪さが一因ですが、それだけでしょうか? 次項では世界の動向を見ながら、もう少しコスト問題について考えて見ましょう。

(更新 2021/09/29)

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