第4章 再生可能エネルギー 4.3 力学的エネルギーの変換 風力発電

 

 前回の水力発電は、水の流れによってタービンを回し発電しますが、そのおおもとは位置エネルギーでした。今回は、風の流れを利用して発電を行う風力発電を取り上げますが、この場合は位置エネルギーはなく、風の持つ運動エネルギーを電気エネルギーに変換させることになります。流体の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する方法は、海洋エネルギーでは海流発電潮流発電で用いられています。

風力発電の概要

 風力発電は風の流れで風車を回転させ、電気エネルギーを産み出す発電方法です。前回の水力発電では水をダム等にため、水車までの落差という位置エネルギーを利用していました。この場合は人が発電量を制御することができ、また安定した発電量を得ることができます。一方、風力発電の場合は、発電量は文字通り「風まかせ」で、不安定であり、制御できないという特徴があります。

図4.4 プロペラ型風力発電機の構成
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Wind_turbine_diagram.svgを元に作成 

 図 4.4 に発電容量の大きなプロペラ型風力発電機の構成を示します。風を受けてブレードが回転し、その回転力はブレードの付け根にあるハブを通してローター軸に伝わり、増速機によって回転速度を数十倍に増幅した後、発電機を動かして発電します。では発電出力を求める式を導いてみましょう。

発電の仕組みと効率

 まず、風の運動エネルギーを求めます。3.1 で求めた運動エネルギーの式は(1)式でした。

$$E=\frac{1}{2}mv^2\tag{1}$$

 質量 \(m\) ですが、風力発電の場合には、風車に流れ込む空気の質量となります。つまり、出力(1秒間当たりのエネルギー)を得るには、1秒間にブレードが作る円の面積 \(A [m^2]\)を通過する空気の質量を求めればいいのです。この \(A\) を受風面積または掃過面積(swept area)と呼びます。風速を\(v  [m/s[\)、空気の密度を\(\rho [kg/m^3]\) とすると、1秒間に風車に流れ込む空気の質量は

$$m/s=\rho vA\tag{2}$$

 よって風の出力 \(P [W=J/s]\) は(3)式で表わせます。

$$P=\frac{1}{2}(m/s)v^2=\frac{1}{2}(\rho vA)v^2=\frac{1}{2} \rho A v^3 \tag{3}$$

 風が持つ出力はこの様に風速の 3 乗と受風面積に比例することになります。しかし、このエネルギーを全部取り出すことはできません。取り出すことのできる出力の割合をパワー係数(power coefficient)と呼び \(C_p\) で表します。これを使って風車より取り出すことができる出力は(4)式の様に表せます。

$$P=C_p\frac{1}{2}\rho A v^3 \tag{4}$$

 イギリスのランチェスターとドイツのベッツによって、風車の出力は風車後方の風速が流入風速の3分の1の時に最大となることが明らかにされました。その時の \(C_p\) は、0.593 となります。すなわち、風車では風の持つエネルギーの最大6割しか取り出すことができないのです。\(C_p\) は風車の周速比(風車周速度/風速)や風車の形状によって変化し、実際には最大で 0.5 程度の値となります。

 さらに、増速機の効率 \(\eta_{gb} \)や発電機の効率 \(\eta_g\) を掛けて、実際の風車の発電出力は(5)式の様になります。

$$P=C_p \eta_{gb} \eta_g \frac{1}{2}\rho A v^3\tag{5}$$

 \(\eta_{gb} \) は大型風車では 0.8 ~ 0.95、小型風車では 0.7 ~ 0.8、\(\eta_g\) は大型風車では 0.8 ~ 0.95、小型風車では 0.6 ~ 0.8 となります。ですから、実際に風車によって取り出せる電気の出力は風の持つエネルギーの 30 ~ 40 % なのです。

出力向上、強い風を求めて

 この様に風力発電では出力は風速 \(v\) と受風面積 \(A\) によって決まりますから、風速の大きな場所に風車を設置し、受風面積が大きくなるようブレードをできるだけ大きくすることがポイントとなります。風速は 3 乗で効いてきますので特に重要です

 風の強さを表す地図を風況マップといいます。図 4.5 は世界の風況マップです。風の強いところは局在化していることが分かります。欧州北部は強い風が吹くことで有名な地域で、このため古くから風力発電が行われてきました。南米パタゴニアも強風で有名ですね。米国では中央部が風況がよく、テキサス州、アイオワ州、オクラホマ州、カンザス州で風力発電が盛んです。それでは日本はどうかというと、図のように極めて風況が良い地域というわけではないようです。

図4.5 世界の風況マップ (IPCC SREENを基に作成)

 地球表面での風速は地表の摩擦力の影響を受けます。地表から約 100 m の高さまでを地表境界と呼びますが、この領域での鉛直高さ \(Z\) での風速 \(V_Z\) はべき乗則(6 式)で表せます。\(V_R\) は高さ \(Z_R\) における風速です。\(n\) は下表にあるとおり、地表面の状態によって決まる数です。

$$ V_Z=V_R {(\frac{Z}{Z_R})}^{1/n} \tag{6}$$

地表の状態
静かな海面など、非常になめらかな面10
平野、草原7
森林、高い建物のない市街地4
大都市の郊外周辺3
大都市の中心付近2

 図 4.6 は高さが 100 m の場所で風速 10 m/s の風が吹いている時に、\(n\) の違いによって、高さと風速の関係がどのように変化するかを見たものです。一般に風速を観測する高さである 10 m に破線を引いています。この様に 100 m の高さでは同じ10 m/s の風が、\(n\) が 2 の都市部では高さ 10 m になると 3 m/s に落ちてしまっています。一方、平らな場所である平野では 7 m/s、海面では 8 m/s とそれほど落ちていません。

図4.6 地表境界層内での風速の分布

 この様に風車を設置するに当たっては、できるだけ風の強いなめらかな平地に設置し、高さを確保することが重要となります。図 4.6 からもわかるように、海は陸に比べて大きな風速が得られます。このように強い風を得るという点では洋上風力が有利となります。図 4.7 は風速という観点から日本の風力発電の賦存量を整理したものです。赤が風速 8.5 m/s の場所ですが、陸上では適地が極めて少ないのに洋上ではたくさん現れています。図 4.5 と見比べて下さい。とても強い風の地域が風速 9 m/s でした。日本でも洋上ならその様な場所がたくさんあるわけです。

図4.7 陸上風力と洋上風力の風速別賦存量

 地表からの高さを高くし受風面積を大きく取る、これが風車の出力を大きくするポイントです。これは風車の大型化によって実現できます。図 4.8 には年を追う度に風車が巨大化し、それにつれて発電コストが低下していく様子を示しています。1985 年にはローターの直径が 17 m 出力が 75 kW であったものが、現状ではローター直径 100 m、ハブ高さ 100 m、出力 3000 kWまで巨大化しています。これによって発電コストが約 73 円/kWh から約 9 円/kWh まで低下しました。さらに将来はローター直径が 150 m(出力1 万kW)、200 m(出力 2 万kW)まで巨大化が進むと予想されています。

図4.8 風車の大きさと発電コスト
出典:資源エネルギー庁 風力発電競争力強化研究会報告書(2016)
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