今回は日本における洋上風力の導入状況について見ていきます。
日本における洋上風力の導入状況
日本における洋上風力の導入状況は以下の通りです。ここで記号は基礎・支持構造を表し、D:ドルフィン、MP:モノパイル、G:重力、HJ:ハイブリッドジャケット、S:スパー、SS:セミサブ、AS:アドバンストスパーとなります。
- 2003年 北海道瀬棚港 Vestas 0.6MW(着床、D)
- 2010年 茨城県神栖 富士重工2MW×7(着床、MP)
- 2013年 茨城県神栖 日立2MW×8(着床、MP)
- 2013年 NEDO 千葉県銚子沖 MHI 2.3MW(着床、G)
- 2013年 NEDO 福岡県響灘 JSW 2MW(着床、HJ)
- 2013年 環境省 長崎県椛島沖 日立2MW(浮体、S)
- 2013年 環境省 福島県楢葉沖 日立2MW(浮体、SS)
- 2015年 秋田港 Simens 3MW(着床、D)
- 2016年 経産省 福島県楢葉沖 MHI 7MW(浮体、SS)
- 2016年 経産省 福島県楢葉沖 日立 5MW(浮体、AS)
関係するURLは次の通りです。

一方、この福島県楢葉沖の洋上風力ですが、2021年度にすべて撤去されることが決定しています。設備利用率が低く採算が見込めないことがその理由のようです。その低い設備利用率がどの程度かというと、2018年の報告書によれば 5 MW のもので 23 % 程度、2 MW のもので 32 % 程度とのことです。それほど風況がよくないことに加えて、設備トラブルによって設備利用率が小さくなっていると思われます。今後、わが国で洋上風力を拡大していくに際して、採算性を十分な検討しておく必要があると思います。

日本風力発電協会によれば、2021 年 12 月末時点の累積設備容量は 51.6 MW、26 基、6 サイトです。実証試験レベルです。ところが、情勢が変化していて、洋上風力はこれから建設ラッシュに向かおうとしています。
洋上風力導入促進策の効果
「5.4 海洋エネルギーについての日本の動き」で述べた様に、2016 年には港湾法が改正され、2017 年には再エネ海域利用法が成立します。 その結果、2017 年以降、洋上風力の計画が多数発表されるようになります。2018 年には洋上風力の FIT が開始されました。買い取り価格は 2021 年度で着床が 32 円 / kWh 、浮体が 36 円 / kWhとなっています(2022 年度は浮体は据え置き、着床は 29 円 / kWh と下がり、2023年以降は浮体は32円を維持ですが、着床は入札に変わります)。
2019~2022 年で指定された再エネ海域利用法促進区域はつぎの 8 カ所で、4 カ所については入札が行われ事業者が選定されました。選定された事業者と価格についてはつぎの 6.5 で考察します。
- 長崎県五島市沖 ⇒事業者選定済
- 千葉県銚子市沖 ⇒事業者選定済
- 秋田県由利本荘市沖(北側・南側)⇒事業者選定済
- 秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖 ⇒事業者選定済
- 秋田県八峰町及び能代市沖
- 長崎県西海市江島沖 ⇒ 22 年追加
- 新潟県村上市・胎内市沖 ⇒ 22 年追加
- 秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖 ⇒ 22 年追加
さらに、有望な区域としてつぎの 7 カ所が発表されています。
- 青森県沖日本海南側
- 青森県沖日本海北側
- 山形県遊佐町沖
- 千葉県いすみ市沖
- 千葉県九十九里沖(九十九里町、山武市及び横芝光町沖) ⇒ 22 年追加
図 6-4-1 の左側にこれらの地域を地図(2021 年時点)で示し、あわせて右側にはそれぞれの場所の風況がわかる図を示しました。また、図 6-4-2 には 2022 年 6 月時点での基地港湾と促進区域の位置図を示します。

出典:左図 2021年9月27日経済産業省資源エネルギー庁国土交通省港湾局「秋田県八峰町及び能代市沖に係る公募占用指針について」に筆者追記
右図 環境省 「令和元年度再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報等の整備・公開等に関する委託業務報告書」に筆者追記

出典:国土交通省「洋上風力発電の導入促進に向けた最近の状況」(2022年6月)
さて、「2017 年以降、洋上風力の計画が多数発表されるようになります」と書きましたが、具体的にそれを示しているのが図 6-4-3 です。これは 2019 年 8 月までの洋上風力のアセス状況を示しています。一般区域、港湾区域合わせて約 13 GW の案件がアセス中になっています。そして、右図にあるようにアセス申請は 2017 年以降急増しているのです。まさに再エネ海域利用法の効果といえるでしょう。

出典:資源エネルギー庁調達価格等算定委員会配布資料(2019年9月24日)に筆者追記
2050年カーボン・ニュートラル宣言以降の動き
最後に、2020 年の「2050 年カーボン・ニュートラル宣言」以降の動きを見てみましょう。
- 2020 / 7 月「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」設立
- 2020 / 12 月「洋上風力産業ビジョン(第1次)」 発表
- 2021 / 6 月「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」発表
この官民協議会が発表した「洋上風力ビジョン」では、具体的な取り組みの方向性の中で目標を記載しています。政府が主語のものと、産業界が主語のものがあります。
政府は、洋上風力発電の導入目標を下記のとおり設定する。
●政府は、年間 100 万 kW 程度の区域指定を 10 年継続し、2030 年までに 1,000 万 kW、
2040 年までに浮体式も含む 3,000 万 kW ~ 4,500 万 kW の案件を形成する。(中略)
競争力があり強靱なサプライチェーンの形成に向けて、産業界は、下記の目標 を設定す
る。●産業界は、我が国におけるライフタイム全体での国内調達比率を 2040 年までに 60 % にする。なお、分野別の具体的な実現方策は、引き続き検討していく。
●産業界は、着床式の発電コストを、2030 ~ 2035 年までに、8~9 円 / kWh にする 。
洋上風力産業ビジョン(第1次) より (太字筆者)
政府による導入目標は地域別でも示されています(図 6-4-4)。2030 年の約 10 GW については、先に述べたように 2019 年8 月末時点のアセス案件が 13 GW ですから、これらがアセスを通過すれば問題なく達成できる数字です。では、2040 年目標のレベルはどのくらいでしょうか? 環境省が示す 36 円 / kWh 以下の地域別導入可能量との比較を行ってみました(図 6-4-5)。導入可能量から見ると、導入目標の値は 2040 年というタイムスパンで可能かという問題はありますが、それほど大きなものではないことが分かります。2040 年目標は、ほぼ買い取り価格 32 円 / kWhでの着床型の範囲内にありますが、九州は 34 円 / kWh にくいこんでいます。


産業界のコスト目標である 8~9円/ kWh ですが、これは 6.1で示した 2021 年 8 月の経産省発電コスト検証ワーキンググループの 2030 年の着床式洋上風力のコストはで 18.2 円 / kWh から見ると大幅な削減になっています。このコストの意味については次章で考察したいと思います。
最後に「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」にある洋上風力の工程表を掲げておきます。

(更新 2022/10/23)