最初の海洋鉱物資源は「海底熱水鉱床(Seafloor Hydrothermal Deposit)」です。
海底熱水鉱床とは
海底熱水鉱床は、海底下にしみこんだ海水がマグマによって熱せられ「熱水」となり、周囲の岩石から有用金属元素を溶かし込み、それが上昇して海底から噴出する際に、噴出孔の周囲に溶けていた有用金属成分を硫化物の形で析出したものです(図12-2-1、図12-2-2)。
最初の発見は 1977 年、東太平洋のガラパゴス諸島の水深 2500 m の場所でアメリカの有人潜水艇「アルビン」によるものでした。以来、現在までに世界中で約 350 の噴出口が発見されています。これらの海底熱水鉱床の存在場所は海底火山の場所と重なっています。
火山は「プレート境界」と呼ばれる場所に存在することが知られていて、プレート境界には「中央海嶺」と「沈み込み帯」の 2 種類があります(図12-2-3)。中央海嶺は、太平洋、インド洋、大西洋などの大洋の真ん中を 60,000 km 以上にわたって連なる海底火山の大山脈(図の赤線)で、プレートが新たらに作られる場所であり、一方、「沈み込み帯」はプレートが海溝から地球内部に沈み込む場所で、ここでも活発な火山活動が起こります。沈み込み帯には陸弧(太平洋の東側にある沈み込み帯で火山活動はすべて大陸内の陸上で起こることからこういう)・島弧(太平洋の西側にある沈み込み帯で大陸から離れた海洋中に存在し、火山島を形成することからこういう)・背弧(島弧の背面つまり海溝と反対側にある海底火山活動場)があります。熱水鉱床発見の報告割合は、中央海嶺が 58 %、背弧が 26 %、島弧が 16 %で、ハワイなどのプレート内火山では 1 % 未満です。
日本はこの島弧に位置するため、多くの海底熱水鉱床の徴候が発見されています。これらの海底熱水鉱床は、分布水深が 700 ~ 1600 m と比較的浅く、金、銀の品位も高いことから、技術的・経済的に開発に有利であると期待されました。
日本の海底熱水鉱床の分布と資源量評価・採取試験
図12-2-4 は日本周辺の海底熱水鉱床を示したものです。海底熱水鉱床は、主として沖縄トラフ と伊豆・小笠原島弧に集中しています。図には併せて火山帯を赤い帯で示していますが、沖縄トラフと伊豆・小笠原島弧は大きな島が少ないので、多くの火山が海底に存在しています。
資源量に関しては、沖縄海域の「Hakurei サイト」(伊是名海穴)において、マウンドと海底面下 30 m 以深の下部鉱体の資源量を合わせて 740 万トン、伊豆・小笠原海域ベヨネース海丘の「白嶺鉱床」については、海底表層部のチムニーやマウンドの資源量をが10 万 tと算定されています(図 12-2-4)。さらに、多数のボーリングを実施しコアサンプルの分析から組成を算出しています。
では海底からどのようにして採鉱するのか? そのイメージが図 12-2-5 です。陸上とは違って、深さが千 m を越える深海です。水圧の高い中、リモートコントロールで機械等を使いながら鉱石を破砕、採取し、鉱石を千数百 m 上の海面まで水中から引揚げなければなりません。これはとてもたいへんな作業です。
さて、その採鉱ですが、深さ 1600 m の実海域での試験が 2017 年に行われています。つぎがその記事です。
では、今後どうなるのか? 商業レベルに持ち込めるのか? ですが、2018 年に行われた「総合評価報告書」の中の経済評価では「資源量評価を実施済みである沖縄海域 Hakurei サイトの Zn 主体の鉱石が、日最大採掘量 5,000 t を 2 船体制で 20 年間操業可能な量存在すると仮定したケースで、現時点での経済条件(2017 年(平成 30 年)平均金属価格)等に基づき経済性を試算した。その結果、プロジェクト期間中の資本費用(CAPEX)合計が 1,184 億円および操業費用(OPEX)合計が 4,652 億円に対して、総収入が 5,058 億円となり、収支はマイナスとなった。」とあり、まだまだ道が遠いことが示されました。
以下がその後の計画です。総合的な検証・評価が 2022 年度となっていますので、これから方向性が出てくるものと思われます。これは海洋鉱物資源全体に対して言えることですが、深海底からの採取にかかる手間を考えると、価値の高い鉱物成分を相当量含有していなければ経済性が成立しないように思います。
参考文献
国交省「海洋開発工学概論海洋資源開発編(改訂第一版)」(2018)
経済産業省・JOGMEC「海底熱水鉱床開発計画総合評価報告書」(2018)