今回は波力発電が世界でどの程度導入されているのかについて見ていきます。結論から言うと現状では波力発電はまだまだ実証試験レベルであり、本格的な導入が進んでいるとはいえません。
世界の導入状況
Ocean Energy Europe (図 7-5-1)によれば、波力発電の世界全体の設備容量は 24.7 MWでその約半分の 12.7 MW が欧州です。しかし、この導入された設備が現在動いているかというとそんなことはなく、欧州の 12.7 MW のうち水中にあるのは 1.4 MW にすぎず、大部分はテストプログラムの成功により廃止されてしまっています。つまり、大部分が実証試験機だったということです。

(出典:Ocean Energy Europe “Ocean Energy Key trends and statistics 2021″)
欧州委員会が 2020 年に発表した「海洋再生可能エネルギーのポテンシャルを将来の気候ニュートラルのために役立てる EU 戦略」によれば、潮流と波力を合わせた導入目標は、2025 年までに 100 MW、2030 年までに 1 GW、2050 年までに 40 GWとなっています。
現状の導入量は 2025 年目標 100 MW の 2 % にすぎません。コロナのパンデミックがあり開発が中断していましたが、ようやく復調し始めているようです。特に欧州はウクライナ戦争を機にロシアからのエネルギー輸入体質から脱却する方向に舵を取っています。陸上での再生可能エネルギーはそのポテンシャルに限りがあるため、今後、海洋エネルギーの開発に拍車がかかるものと思われます。
なお、2050 年時点における、世界全体の波力発電の導入設備容量の見積もりは、OES(Ocean Energy System)が 337 GW、IEA(国際エネルギー機関)が 63 GW となっています。
波力発電のコストが洋上風力などに比べて高いことが普及の妨げになっていると予想されます。ちょっと古いですが、図 7-5-2 はいろいろなソースから採った波力発電コストを円に変換したものです。2020 年時点だと着床式洋上風力を 15 円 / kWh とすると、その 2 ~ 5 倍です。やはり、2050 年の 7~15 円/ kWh のレベルまで来ないと大きな伸びは期待できないと思います。

実海域試験例
2021 年には欧州の 5 カ所で新規設備が導入され、欧州以外ではオーストラリア、中国、米国、チリで 5 つの新規設備が導入されています。
欧州
スコットランド、オランダ、イベリア半島は、波力エネルギー開発のホットスポットになりつつあり、2021 年にはいくつかの設備が設置され、今後数年間でさらに多くの設備が計画されています(図 7-5-3)。これは主に、この地域における政治的支援の増加と、技術の進展を目的とした多額の公的資金投入によるものです。これらの支援は 2025 年まで継続される見込みです。下表に方式(Type)が示されていますが、振動水柱、ラフト、ポイントアブソーバー、回転物体式といろいろな技術が試されています。

(出典:Ocean Energy Europe “Ocean Energy Key trends and statistics 2021″)
このうちスペインの penguin2 は 600 kW の実スケールモデルで、波による船の回転揺れを電力に変換するというものです。詳しくは下記をご覧下さい。
欧州以外
欧州以外では 5 台の装置が設置され、そのうち 4 台は本格的なプロトタイプです(図 7-5-6)。 豪州の Wave Swell Energy 社はユーティリティ市場向けの大型水柱振動装置を設置しました(図 7-5-7)。一方、中国や米国の装置は、洋上観測装置の電源などニッチな市場に焦点を当てたものです。

(出典:Ocean Energy Europe “Ocean Energy Key trends and statistics 2021″)

(出典:Ocean Energy Systems “Anual Report An Overview of Ocean Energy Activities in 2021″)

(出典:Ocean Energy Systems “Anual Report An Overview of Ocean Energy Activities in 2021″)
参考文献
- Ocean Energy Systems “Anual Report An Overview of Ocean Energy Activities in 2021
- IRENA Wave Energy Techology Brief 2014
(更新 2022/10/28)