第3章エネルギーの基礎 3.6 発電方法別のCO2排出量と発電コスト

  

 第 3 章の最後は、原子力や再生可能エネルギーも加えて、電源別に CO2 排出量と発電コストを比較します。コストについては結果を紹介するだけではなく、算出方法についても解説していきたいと思います。

発電方法別の CO2 排出量

 火力発電、原子力発電、及び再生可能エネルギーの発電電力量当たりの CO2 排出量(g-CO2 / kWh)を比較してみましょう。再生可能エネルギーや原子力はそもそも発電時に CO2 が発生しません。しかし、設備の資材や運搬、建設時はどうでしょうか? 

 原料の採掘・輸送・加工・廃棄物処理など、サプライチェーン全体、つまり発電のライフサイクル全体にわたって発生する CO2ライフサイクル CO2 発生量といいます。これを比較したものが図 3.21 です(本データは電力中央研究所の報告書を元にしています)。オレンジの部分が発電時の CO2 発生量、青の部分がライフサイクルのその他の部分で発生する CO2 です。火力発電では石炭火力、石油火力、LNG 火力、LNG コンバインドサイクルの順にライフサイクル CO2 排出量が小さくなっています。先に述べた化石燃料の排出係数の順になっています。LNG と LNG コンバインドサイクルの差は効率の違いを反映しています。それにしても、排出量が最も少ない LNG コンバインドサイクルでさえ 474 g-CO2 / kWhで、再生可能エネルギーや原子力に比べて 10 倍以上になっています。効率向上だけでは、火力発電の CO2 排出量を大幅に下げることはできません。さらに排出量を下げるには別の技術を組み合わせる必要があります。それが 13 章で紹介する二酸化炭素回収・貯留技術(carbon dioxide capture and storage、CCS)です。

図]3.21 電源別 CO2 排出量

発電方法別の発電コスト

 では、つぎに発電コストを比較してみましょう。まず、発電コストの算出方法について解説し、つぎにコスト算出の具体例を紹介します。

発電コストの算出方法

 まず、発電コストの大まかな算出方法について考えます。一般的に発電コストの算出式は次式で表されます。

\begin{align} 発電コスト P_g \hspace{8px} [円/kWh]=\frac{総費用\hspace{8px}[円]}{総発電電力量\hspace{8px} [kWh]}=\frac{総固定費\hspace{8px}[円]+総変動費\hspace{8px}[円]}{総発電電力量\hspace{8px} [kWh]} \tag{1}\end{align}

 固定費とは設備費や人件費等のように発電量とは関係なく必ずかかる費用です。一方、変動費とは燃料費等のように発電量によって変化する費用です。

 さまざまな電源の発電コスト比較しようする場合、2 つの異なる算出方法があります。ひとつは電源ごとに適切な建設単価や燃料費などを設定してモデル計算を行うモデルプラント法と電力会社の有価証券報告書の財務諸表を基に発電に掛かった費用を割り出していく方法です。後者は現状の実績値を知るにはたいへん役立ちますが、将来の姿については何も語ってくれません。そこで、この項ではモデルプラント法に絞って解説したいと思います。モデルプラント法は発電コストを推定する手法として世界的に広く用いられています。

 さて、一口にモデルプラント法といっても、固定費や変動費の中にどんな項目を含めるのかによって値が異なりますし、(1)式の総費用と総発電電力量にしても、年間で考えるのか、プロジェクト全体の期間で考えるかでやりかたが異なります。発電プラントはプロジェクトの初期に建設がきて、その後に運転費や運転維持費がかかり、最後にプラントの廃棄費用がかかります。支払う時期が異なる費用をどのように取り扱うのかという問題もあります。

現在価値と将来価値、割引率

 まず、お金の価値と時間との関係を整理しておきましょう。

 時間によってお金の価値が異なります。今持っている 100 万円と 10 年後の 100 万円は金額は同じでも価値が違います。100 万円を銀行に預ければ利子の分、100 万円より増えていますし、100 万円を投資すれば収益が期待されます。つまり、今の100 万円の方が 10 年後の 100 万円より価値が高いのです。従って、このようにお金には時間価値があることから、コスト計算においても発生する費用の時間価値を調整する必要があります。つまり、将来の価値を割り引いて現在の価値に変換する必要があるのです。この変換係数を割引率(discount rate)といいます。

 割引率を \(r\) として、\(t\) 年後のお金 \(I\) を現在の価値 \(I_0\) に変換してみましょう。\(t=1\) の場合には、\(I=(1+r)I_0\) ですから、現在価値に戻すには \(I_0=\frac{I}{1+r}\) となります。従って、\(t\) 年ではつぎの様になります。

$$I_0=\frac{I}{(1+r)^n}\tag{2}$$

一年当たりの費用と発電電力量で考える計算方法

 まず、(1)式の期間を1年で考える場合の発電コストの算出方法について説明します。この方法は簡単なので、年間発電電力量が一定であると考えてよくこの方法が使われています。

 図 3.22 に発電プラントの費用発生イメージを示します。最初にプラントの建設費が発生します。そして、その後、燃料費や人件費、修繕費などの費用が毎年発生します。建設費分を後の運転期間に分配することができれば、一年間の総費用が計算できます。お金には時間価値がありますから、単純に均等分配するといった方法は使えません。そこで、年経費率を使います。これは初期に行われた設備投資資額 P を、割引率を \(r\) とした場合の \(n\) 年間にわたる均等な年間投資額 A に変換する係数です。年経費率は資本回収係数(capital recovery factor)とも呼ばれます。

図3.22 発電所の費用発生イメージ

 これによって、(3)式の様に年間の総費用と発電量から発電コストが計算できます。

\begin{align} 発電コスト C_g \hspace{8px} [円/kWh]= \frac{設備投資\hspace{8px}[円]×年経費率+燃料費\hspace{8px}[円]+運転維持費\hspace{8px}[円]}{年間発電電力量\hspace{8px} [kWh]} \tag{3} \end{align}

 では、年経費率資本回収係数がどのような式になるかみてみましょう。最初の年に設備投資の資金として\(P_0\) を借入し、利息 \(r\) で毎年 \(A\) ずつ \(n\) 年間、均等返済していくと考えるとわかりやすいかと思います。このときの、\(P_0\) から \(A\) を求めてみましょう。毎年の元金 \(P_x\) を追いかけてみます。

\begin{align} 1年目:P_1=P_0(1+r) \end{align}

\begin{align} 2年目:P_2=(P_1-A)(1+r) = P_0{(1+r)}^2 – A(1+r) \end{align}

\begin{align} 3年目:P_3 = (P_2-A)(1+r) = P_1{(1+r)}^2 – A(1+r) \\ = P_0{(1+r)}^3 – A[{(1+r})^2 +(1+r)] \end{align}

\begin{align} n年目:P_n=P_0{(1+r)}^n -A[{(1+r})^{n-1}+……+ {(1+r})^2 -(1+r)] \end{align}

 \(n\)年目に最後の返済を終えると残りはゼロとなりますから、\(P_n=A\) よって

\begin{align} A=P_0{(1+r)}^n -A[{(1+r})^{n-1}+……+ {(1+r})^2 -(1+r)] \end{align}

\begin{align} P_0{(1+r)}^n= A[{(1+r})^{n-1}+……+ {(1+r})^2 -(1+r)+1] \end{align}

 右辺の[]の中は、初項1、公比\((1+r)\)の等比数列の和ですから、

\begin{align} P_0{(1+r)}^n=A\frac{1-{(1+r)}^n}{1-(1+r)} = A\frac{1-{(1+r)}^n}{r} \end{align}

 ここで資本回収係数(capital recovery factor)を \(A/P_0\) と定義すると以下の様に表せます。

\begin{align} 資本回収係数= \frac{r{(1+r)}^n}{{(1+r)}^n-1} = \frac{r}{1-{(1+r)}^{-n}} \tag{4} \end{align}

プロジェクト期間全体の費用と発電電力量で考える方法

 つぎにプロジェクト期間全体で考える均等化発電原価(levelized cost of electricity、LCOE)法について説明します。この方法はいろいろな時期に発生する費用を取り込めるので、国際的に広く用いられています。要はプロジェクト期間を設定し、その間に発生する費用を全部、割引率を用いて現在価値に変換し、積み上げていくという方法です。

\begin{align} 発電コスト P_g =\frac{\sum(資本費+運転維持費+燃料費+CO2対策費) {(1+r)}^{-n}}{\sum(発電電力量){(1+r)}^{-n}} \tag{5} \end{align}

 (5)式のように、費用を割り戻していますが、発電電力量の方も割り戻すのが特徴です。これは電力 1kWh あたり \(P_g\) 円の収入を得ると想定し、割引後の総収入と割引後の総費用が等しくなるように価格 \(P_g\) を求めているからです。

発電コストの算出例(発電コスト検証ワーキンググループ報告書)

 それでは具体的に発電コストの算出例を見てみましょう。ここでは、総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループの報告書をとりあげます。原子力、石炭火力、LNG火力、風力、地熱、水力、バイオマス、石油火力、太陽光などについて、2014 年と 2030 年を想定した均等化発電原価(LCOE)を算出しているものです(図 3.23)。

図3.23 電源別発電コストの比較

 費用として計上されている項目は、資本費運転維持費 燃料費社会的費用(環境対策費用 + 事故リスク対応費用 + 政策経費) となっています。それぞれの中身を調べてみましょう。

 まず、資本費ですが、建設費、固定資産税、水利使用料、設備の廃棄費用からなります。つぎの運転維持費は人件費、修繕費、諸費、業務分担費から構成されています。この業務分担費とは一般管理費のことです。三番目は燃料費。ここまでは一般的に計上される項目ですが、最後に、社会的費用というのが加わっています。これは追加的安全対策費事故リスク対応費政策経費CO2対策費から構成されます。それぞれ下記の様に説明されています。

  • 追加的安全対策費(原子力):東京電力福島第一原子力発電所事故後、4回にわたる政府からの追加的安全対策の指示、原子力関係設備・施設に係る新規制基準、自主的安全性向上の取組を踏まえて講じられた安全対策の費用
  • 事故リスク対応費(原子力):シビアアクシデントのリスクに対応するコスト
  • 政策経費:発電事業者が発電のために負担する費用ではないが、税金等で賄われる政策経費のうち電源ごとに発電に必要と考えられる社会的経費。
  • CO2 対策費:発電のための燃料の使用に伴い排出されるCO2対策に要する費用で、CO2 排出量に相当する排出権を購入するとした場合の費用で、World Energy Outlook 2014のシナリオに従い、2014 年は 8$/t-CO2、2030 年は 37 $t-CO2

 パリ協定を踏まえたベストミックス策定に寄与するという目的で電源別の発電コストの比較を行っていますので、 CO2 対策費は必須です。追加的安全対策費と事故リスク対応費はどちらも原子力の項目で、東日本大震災時の福島原発事故を踏まえて、原発の発電コストの精緻化を図ったものと思われます。では、政策経費とは何でしょうか? 具体的に計上されているのは、再生可能エネルギー関連の IRR 相当政策経費、予算関連政策経費ですが、 IRR 相当政策経費が大部分を占めています。IRRとは内部収益率のことですが中身がよくわかりません。さらに読んでいくと、「固定価格買取制度の調達価格の優遇された利潤相当分を計上する」とあり、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)によって高値で電力を買い取っているわけで、結局、需要家の負担上昇分が国民の払う電気料金に上乗せされているから、この部分をコストに計上しないと他とのバランスが取れないということのようです。これについては、第 4 章で触れたいと思います。

稼働年数、割引率、設備利用率

 発電コストの値は、どういった費用を盛り込むかという事以外に、設定するパラメータによってもかなり影響を受けます。その代表的なものが稼働年数割引率設備利用率です。

 稼働年数が長くなれば、当然ながら建設費の負担分が小さくなります。式(3)の年経費率で考えて見ましょう。例えば割引率を 3 %として稼働年数が 20 年の場合と 40 年の場合の年経費率を計算してみると、それぞれ 0.067 と 0.043 となります。つまり、稼働年数が 2 倍になると、設備投資の年負担分が約 6 割になるのです。今度は割引率を動かしてみましょう。割引率を 5 %とすると、稼働年数 20 年の場合の年系率は 0.08 と約 1.2 倍となります。このように、稼働年数と割引率を動かせばコストが変わります。先の発電コスト検証ワーキングループの試算では、表 3.4 のように稼働年数が設定されています。また、割引率は 3% で、別途 1~5 %で感度分析がなされています。

表3.4 発電コスト検証ワーキンググループ報告書における稼働年数と設備利用率

 設備利用率(capacity factor, energy available factor)とは、その設備が 100 % 運転を続けて得られる発電電力量に対する割合を示す指標で、以下の式で表されます。

\begin{align} 設備利用率(%)=\frac{年間発電量}{発電設備の定格出力×365日×24時間}×100 \end{align}

 よく似た用語に稼働率がありますが、こちらは出力の多寡にかかわらず、発電していた時間の割合を示す指標です。発電量がわずかであっても運転しておれば、稼働時間とみなされます。

 さて、設備利用率は(1)式の年間発電電力量に効いてきます。表 3.4 に示すように風力と太陽光の設備利用率はたいへん小さな値になっています。それは、太陽光発電の場合には夜の間は発電できませんし、雨の日は出力が落ちます。風力にしても風が吹かない時には発電ができないからです。しかし、この設定いかんによって発電コストが変化するので留意が必要です。

第3章の参考図書

  • 牛山泉、山地憲治共編「エネルギー工学」オーム社(2010)
  • 平田哲夫、田中誠、熊野寛之、羽田喜「図解 エネルギー工学」森北出版(2011)

(更新 2021/05/02)

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