前回は「人はなぜ海に出るのか」について考えました。海には豊富なエネルギーや資源があります。これをどのように利用していくのか考えることがこの講座の目的です。海域再生可能エネルギーには洋上風力、波力、潮汐、潮流、海流、海洋温度差、塩分濃度差などいろいろな種類があります。ここでは、それぞれのポテンシャルがどのくらいなのか調べてみましょう。
再生可能エネルギーのポテンシャルを陸と海に分ける
海洋エネルギーそれぞれの大きさの話に入る前に、再生可能エネルギーのポテンシャルを「陸」と「海」に分けてみたいと思います。再生可能エネルギーのポテンシャルについては、すでに 4.1 で述べています。図 4-1-2 と図 4-1-3ですね。これを陸と海に分類します。まず世界全体ですが、Ecofys のデータがそろっています。値を抜き出してみると、図 5-2-1 の様になります。陸が 93 % に対して、海が 7 % です。圧倒的に陸が多いですね。
つぎは日本のポテンシャルです(図 5-2-2)。値は海が 79 %、陸が 21 % と逆転しています。人類は陸に住んでいますから、世界全体でみれば陸地で生まれるエネルギーの方が重要ですが、島国の日本からみると陸地の面積が狭いゆえ、海がとても大事になります。日本にとっては大きなポテンシャルを持つ海をいかに活用できるかがとても重要なテーマとなるのです。ここで値が突出しているのが洋上風力のポテンシャルです(ただし、それぞれがどのようにして求められているのか検証が必要です)。これについてはつぎの第 7 章で詳しく解説しようと思います。
海域再生可能エネルギーの分類
海域再生可能エネルギーのそれぞれのポテンシャルについて議論する前に、海域再生可能エネルギーにはどんなものがあるのか簡単に整理しておきましょう。
- 海水の動きを利用した発電:海には海水が存在し動いています。波、海流、潮流、潮汐などがそれです。これらの力学的エネルギーを取り出し発電しようというのが波力、海流、潮流、潮汐発電です
- 海水の表面付近と深部の状態差を利用した発電:表面付近と深部では海水の温度や塩分濃度が異なっています。これを利用しようというのが、海洋温度差(OTEC)、塩分濃度差発電などです
- 海という場所を利用した発電:海水が持つエネルギーを扱うのではなく、海という「場所」を利用した発電方式で、洋上風力発電、洋上太陽光発電などが該当します
海域再生可能エネルギーのポテンシャル
では、海域再生可能エネルギーのポテンシャルをいろいろな文献から抜き出してみましょう。図 5-2-3 が世界全体ですが、なかなか値がそろったものがありません。理論ポテシャルは、波力と海洋温度差発電(OTEC)が大きいことが分かります。技術ポテンシャルでは波力が大きいですね。あとで述べますが、潮汐、潮流、海流が大きな場所は限定されているのに対して、波は広範囲に見られる現象ですからポテンシャルは大きくなります。
つぎに日本です(図 5-2-4)。理論ポテンシャルにあたる賦存量では、海洋温度差が一番大きく、ついで波力と海流となっています。技術ポテンシャルでは海洋温度差を波力が抜きます。洋上風力を加えると、圧倒的に洋上風力が大きくなっています。ただし、技術ポテンシャルではいろいろな制限条件が設定されていますから、数字を鵜呑みにするのではなく、その妥当性を検討する必要があります。
海域再生可能エネルギーの導入量の現状と今後の予測
この様な GW オーダーのポテンシャル持つ海域再生可能エネルギーですが、現在、いったいどのくらいの量が使われているでしょうか? 答えは「ほとんど使われていない」です。世界全体の洋上風力の発電設備容量は 2021年は 56 GW です。2021 年の風力全体は 825 GW ですから 6.8 % 程度で 2010 年が 3 GW だったことを考えると大きく伸びています。 洋上風力は伸び始めていますが、欧州・韓国などで実用化されている潮汐発電は 2019 年で 600 MW、その他の海洋エネルギーは図 5-2-5 のとおり、2017 年で合わせて 25 MW です。最新の資料では 2020 年時点での海洋エネルギーの設備容量は 535 MW で、このうち潮汐発電が 522 MWとのことですから、2017 年より減少してしまっています)。風力が GW レベルなのに対し、洋上風力を除く海洋エネルギーは世界全体でも MW レベル、図 5-2-3 の技術ポテンシャルの千分の 1 程度しか使われていなのです。
では海洋エネルギーは今後どのくらい使われると予測されているでしょうか? IEA によれば、洋上風力は 2030 年に 154 ~ 193 GW になると予測されています。これは現状の 5.5 ~ 6.9 倍です。 その他の海洋エネルギーは図 5-2-6 のようにシナリオによって異なりますが、2040 年までに約 9 ~ 34 GW と予測されています。潮汐発電も入れて考えるとこれは現状の 14 ~ 54 倍という数字です。
図 5-2-6 にあるように導入量の伸びは政策シナリオによって異なっていますね。再生可能エネルギーのところで見てきたように、導入量の引き上げは政策次第なのです。最新の国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の報告書では、パリ協定の 1.5 ℃目標に整合するシナリオでは洋上風力を除く海洋エネルギーの累積設備容量は 2030 年には 70 GW 以上、2050 年には 350 GW 以上と、先ほどの IEA の分析よりはるかに大きい数字になっています。
では、つぎの項では世界各国が海洋エネルギーに対してどのように取り組んでいるか調べることにしましょう。
(更新 2022/10/22)