第2章海洋と気候変動 コラム2.2 パリ協定と排出削減目標

 このコラムでは気候変動に関わる国際的な取り組み日本の温室効果ガスの削減目標についてまとめておきましょう。

気候変動枠組条約と京都議定書

 気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change、UNFCCC)は大気中の温室効果ガスの濃度を気候体系に危害を及ぼさない水準で安定化させることを目的とした国際条約で、1994 年 3 月に発効しました。締約国数は 197 か国+EUです。条約では、温室効果ガス削減計画の策定・実施と排出量の実績公表が全締約国の義務として定められ、先進国は途上国への資金供与や技術移転の推進などの追加義務を課されています。また、共通だが差異のある責任(Common But Differentiated Responsibilities、CBDRRC)すなわち、先進国は途上国より重い責任を負うべきとの原則に立っています。気候変動枠組条約の交渉は締約国会議(COP)で行われます。

 京都議定書(Kyoto Protocol)は、1997 年 12 月に京都で作成され,2005 年 2 月に発効しました(締約国数:192 か国+EU)。京都議定書では、付属書Ⅰ国先進国のみに数値目標を伴う削減義務を課しました。第一約束期間(2008~2012年)での削減目標は1990年比で、日本-6%、米国-7%、EUー8%などでしたが、 米国は2001年に離脱宣言を出し、カナダも 2012 年12月に脱退しています。続く第二約束期間(2013~2020年)は、米国、カナダ、ロシア、日本などの先進国が「全ての国が参加する枠組みが必要」と主張して参加せず、要件が満たされないため未発効となっています。

パリ協定

 京都議定書への参加カバー率は第一約束期間で 22 %、第二約束期間では 13.4 %と低いため実効性に欠けるという批判がありました。これを踏まえて、2015 年 12 月の COP 21 において、全ての国が参加する枠組みとしてパリ協定(Paris Agreement)が採択され、2016 年 11 月 4 日に発効しました。

 協定の目的が第 2 条の 1、緩和の長期目標が第 4 条の 1 に書かれています。

第2条 1 この協定は、条約(その目的を含む。)の実施を促進する上で、持続可能な開発及び貧困を撲滅するための努力の文脈において、気候変動の脅威に対する世界全体での対応を、次のことによるものを含め、強化することを目的とする。

(a) 世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも 2 ℃ 高い水準を十分に下回るものに抑えること並びに世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも 1.5 ℃ 高い水準までのものに制限するための努力を、この努力が気候変動のリスク及び影響を著しく減少させることとなるものであることを認識しつつ、継続すること

(b) 食糧の生産を脅かさないような方法で気候変動の悪影響に適応する能力並びに気候に対する強靱性を高め、及び温室効果ガスについて低排出型の発展を促進する能力を向上させること。

(c) 温室効果ガスについて低排出型であり、及び気候に対して強靱である発展に向けた方針に資金の流れを適合させること。

第4条 1 締約国は、第 2 条に定める長期的な気温に関する目標を達成するため、衡平に基づき並びに持続可能な開発及び貧困を撲滅するための努力の文脈において、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成するために、開発途上締約国の温室効果ガスの排出量がピークに達するまでには一層長い期間を要することを認識しつつ、世界全体の温室効果ガスの排出量ができる限り速やかにピークに達すること及びその後は利用可能な最良の科学に基づいて迅速な削減に取り組むことを目的とする

 第 4 条は、2050 年実質排出ゼロ(ネットゼロ)を求めています。ここで実質(ネット)という言葉がゼロエミッションの前についていることに注意して下さい。温室効果ガスの排出を完全にゼロにしろとは言っていないのです。CO2 の吸収分は排出してもよいと言っています。いずれにしても、温室効果ガスの大幅削減が必要となります。

 先進国、途上国を問わず、京都議定書の様な特定年次に向けての世界の削減数値目標を課するのではなく、主要排出国を含む全ての国が自国の国情に合わせ、2025年/2030年に向けての温室効果ガス国別削減目標NDC:Nationally Determined Contribution)を策定し、削減目標の目的を達成するための国内対策をとります。さらに、5年ごとに目標を見直し、(原則より高い目標を)提出することになっています。また、各国は目標の達成に向けた進捗状況に関する情報を定期的に提供し、提出された情報は、専門家によるレビューを受けます。(プレッジ&レビュー

 また、各国は気候変動の悪影響に対する適応能力と耐性を強化し、長期目標達成を念頭に置いた温室効果ガスの排出の少ない発展戦略を策定し 2020 年までに提出することが求められています。さらに、長期目標の達成に向けた全体的な進捗を評価するため、2023 年から 5 年ごとに実施状況(緩和、適応、実施手段、支援)を定期的に確認しその結果を各国の行動、支援の更新・拡充の際にインプットしていくグローバル・ストックテイク)ことになっています。

 パリ協定はすべての国が参加する枠組みとして非常に意義のあるものですが、すでにご存知の様に 2017 年 6 月に米国のトランプ大統領が不公平な協定だとして離脱を表明し、2020 年 11 月 4 日に正式に離脱しますが、 2021 年1月 20 日米大統領にジョー・バイデンが就任すると、その日のうちにパリ協定復帰に向けた手続きを進める文書に署名しました。

わが国の排出削減目標

 日本はパリ協定の採択に先立つ 2015 年 7 月に温室効果ガス国別削減目標(NDC)を策定し、UNFCCC に提出しています。その内容は温室効果ガス排出量を 2030 年度に 2013 年度比で26.0 %削減(2005年度比 25.4 %、約10 億 4,200万 t-CO2 削減)するものです。また、長期的目標として 2050 年までに 80 %の温室効果ガスの排出削減を目指すとしています。NDC の根拠は 2016 年に閣議決定された地球温暖化対策計画に記されています。また長期戦略については、2019 年 6 月に閣議決定されたパリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略に述べられています。

 なお、パリ協定では 5 年毎に国別削減目標を見直すことになっていますが、日本政府は 2020 年 3 月 30 日、従来の 2013 年度比で 26.0 %削減という目標を据え置くことを決定します。ところが、9月に内閣総理大臣に菅義偉氏が就任すると、2050 年CO2排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)が宣言され、2030 年に向けた日本の取り組みについても、新たな目標を踏まえて議論を進め、2021 年の COP26 までに国連に通報することを目指すとの表明がなされています。

 日本の CO2 排出量の 9 割を占めるエネルギー起源 CO2 排出量については、部門別削減量の目安が表カラム 2.2.1 の様に発表されています。NDCにおいては、部門によって削減の寄与が異なっており、産業部門で小さく、業務その他・家庭といった民生部門の比率が大きくなっています。つまりこれまで十分でなかった民生部門のエネルギー消費を省エネ建物・機器などの導入によって削減することを期待しているのです。

表カラム2.2.1 日本の部門別エネルギー起源CO2排出量の現状と2030年削減目標

 CO2 排出量の削減を行うには、2.8 排出抑制のためにで見た様に、省エネエネルギーの脱炭素化が重要です。長期戦略にある大幅な CO2 排出削減を実現するには、再生可能エネルギーなどの CO2 排出量の少ないエネルギーを増やすというエネルギーミックスの変更が重要な役割を占めますが、これについては第 3 章で述べたいと思います。

(更新:2021/02/16)

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