第1章海洋についての基礎 コラム1.1 コリオリの力って何だ?

 第 1 章のいろいろな箇所にコリオリの力が出てきますが、それがどのようにして生じるのかについては説明しませんでした。その説明をこのコラムで行おうと思います。コリオリの力は実にわかりにくい概念で、いろいろな説明があるのですが、もうひとつしっくりきません。本コラムにいくつかの代表的な説明を列挙してみますので、みなさんで考えてみてください。

事前説明:慣性系と非慣性系

 コリオリの力は、つまるところ地球という自転する球体の上(非慣性系回転座標系)から、慣性系の運動がどう見えるのかという問題です。ですから、コリオリの力の説明に入る前に、慣性系非慣性系について簡単に説明しておきます。

 慣性系とは運動の第1法則第2法則が成り立つ座標系で、そうでない座標系が非慣性系です。

  • 運動第1法則:物体に外的な力が加わらない限り、物体は静止し続けるか、等速直線運動を続ける(慣性の法則)
  • 運動第2法則:加速度 \(a\) の大きさは、加えた力 \(F\) に比例し、質量 \(m\) に反比例する。 \( \vec{F}=m \vec{a} \)

 下の電車の図で考えてみましょう。左側は電車が等速運動をしているケースです。重力によってつり革は真下に垂れ下がっています。ここで、右図のように電車が加速されると、つり革は進行方向とは逆側に動きます。 この電車の外からこの動きを見ると、運動法則が成立していて、つり革は静止し続け、電車の方が動いたと見えます。ところが、 電車に乗っている人から見るとどうでしょう? 力も加えていないのにつり革が勝手に動いたのです。つまり、ここでは運動法則が成立していません。それでは不便ですから、つり革が動いたのだからなんらかの力が働いたはずだと考えることにします。このみかけの力が慣性力です。

図 慣性系と非慣性系

 非慣性系となるケースとしては、観測者が加速度運動をしている場合円運動をしている場合があります。コリオリの力は後者、観測者が円運動をしている場合の慣性力なのです

回転する円盤の中央からボールを投げる

 コリオリの力の説明に、回転する円盤(地球)の中央(北極)からボールを投げるケースがよく使われています。ここでは柳哲雄「海の科学 海洋学入門[第3版]」(恒星社厚生閣)を参考に説明しましょう(説明は少し変えています)。

 北極点 P に人が立っています。ここで地表は角速度 \(ω\) で反時計回りに等速回転しています。P から A に向かってボールを投げると、ボールは直進して A に向いますが、ボールが \( \overline{ PA } \) の距離を進んだときには A はすでに A’ に移動していますので、P 点に立っている人(非慣性系)からこのボールを見ると、ボールが進行方向を西(右)に曲げて \( \stackrel{\normalsize \frown }{ PA” } \) の軌跡を通ったように見えます。西に曲がったように見えるということは、東から西に向かって力が加わったように見えるということで、このみかけの力をコリオリの力といいます。

 つぎにコリオリの力の大きさを求めます。

 ボールの速さを \(v\) とすると、P から A に到達する時間 \(t \) は

$$t= \overline{ PA } /v $$

 となり、この間に A は A’ に移動するわけですが、 \(\stackrel{ \normalsize \frown }{ AA’ } \) の長さを \(x\)とすると、 Aの線速度は \( ω\overline{ PA } \) ですから、

$$ x =ω \overline{ PA } t=ωvt^2 $$

 となります。

 見かけの力が働いて A が A” にずれたのですから、その加速度 \(a \) は、

$$a= \frac{ d^2 x }{ d t^2 } =2ωv $$

 ボールの質量を \(m \) とすると、コリオリの力 \( F \) はつぎのようになります。

$$F=ma =2 mωv $$

 これで、コリオリの力の特徴のうち、「動いている物体にしか働かない。力の大きさは、物体の動く速さ \(v\) に比例する」「力の働く向きは北半球では右向き、南半球では左向きとなる」が説明できました。しかし、この説明では、北極(南極)以外からボールを投げる場合にはどうなるのかや、赤道でコリオリの力が働かない理由が説明されません。

地球に円錐キャップを被せる

 では極以外のケースを考えましょう。前掲の本では、地球に被せた円錐形のキャップを展開して、緯度と回転角速度の関係を説明していますので紹介しましょう(ただし、説明は少し変えています)。

 まず、上図の様に地球に円錐形のキャップを被せます。 キャップと接する Q 点 に人が立っていて、北( C 点)の方向を見続けています。 地球が自転しているため、Q 点は半日後には S 点に、1日後には Q’ 点に移動します。右側はこのキャップを展開したものですが、北の方向はイ→ロ→ハと移動していきます。いま、Q’C に平行に QC’ を引いてみると、人は鉛直線 Qx の周りに、QC’ から QC まで回転したことが分かるでしょう。この回転角を λ とすると、これは QC と Q’C のなす回転角に等しくなります。つぎにこの回転角 λ と緯度 φ の関係を求めましょう。

 回転角 λ は \( \stackrel{ \LARGE \frown }{ QSQ’ } \)と半径が L の円周の比となります。ここで L は底辺が \( R \cos{ φ }\) 、角度が(\(90 \text{°} -φ \))の三角形の斜辺となりますから、

$$\overline {PQ}=L\cos{(90 \text{°} -φ) }=L\sin{φ}$$

$$ \stackrel{ \LARGE \frown }{ QSQ’ } = 2\pi \overline { PQ}=2\pi L\sin{φ} $$

$$λ= \frac{ 2\pi L\sin{φ} }{ 2\pi L } 2\pi= 2\pi \sin{φ} $$

 よって、地球の角速度\(ω=2\pi/24hr\)だから、緯度φにおける角速度は

$$ω’= 2\pi \sin{φ} /24hr=ω \sin{φ} $$

 ボールの質量を \( m \) とすると、緯度φにおけるコリオリの力 \(F \) はつぎのようになります。

$$F=2 mω \sin{φ} v $$

 ここで、

$$ f=2 ω \sin{φ} $$

 このfをコリオリパラメータと呼びます。北極では φ = 90° ですから、コリオリパラメータは 2ω、一方、赤道では φ = 0° で、コリオリパラメータはゼロです。すなわち、前述の「コリオリの力は赤道では働かず、緯度が高いほど大きくなり、北極や南極で最大となる」が説明できるようになりました。ただ、この説明では 緯度から回転角速度を求め、「回転する円盤の中央からボールを投げる」のところの説明にドッキングしたので、中緯度でのコリオリ力の挙動自体を説明したわけではありません。 北極(南極)以外からボールを投げる場合にはどうなるのか、特に例えば北半球で緯度方向の運動が南向きにそれる理由が説明されていません。

座標系の変換

  よくある もう一つの説明が、座標系の変換を行うものです。空間に固定した直交座標系 K(慣性系)と、相対的に角速度 \(ωt\) で回転する座標系 K’ を考え、慣性系 K で物体に力 F が働くときの運動方程式を回転座標系に変換します。

 最初に K から K’ に座標変換する式を求めます。点 P の時刻 \(t \) における 慣性系 K と 回転座標系 K’ の座標をそれぞれ \((X,Y)\) \((x,y)\) とすると慣性系 K → 回転座標系 K’ の変換式は図から以下のようになります。

$$ X = \overline{Oc }- \overline{Xc} =x\cos{ωt}-y\sin{ωt} \tag{1}$$

$$ Y = \overline{Yd }+ \overline{Px} =x\sin{ωt}+y\cos{ωt}\tag{2}$$

 いま、慣性系 K で質量 m の物体 Q に力 \( \vec{F} \) が働いているところを考えます。力の \(X,Y\) 成分を \( (F_{X}, F_{Y} )\)、加速度 \(\vec{a}\) の \(X,Y\) 成分 を \( (a_{X}, a_{Y}) \)とすると、運動第 2 法則は以下の様に表せます。

$$F_{X} = ma_{X}= m\normalsize{\frac{d^2X}{dt^2}} = m\ddot{X}\tag{3}$$

$$F_{Y} = ma_{Y}= m \normalsize{\frac{d^2Y}{dt^2}} = m\ddot{Y}\tag{4}$$

(1)(2)式を用いて、 (3)(4)式を 回転座標系 \((x,y)\) に変換していきます。まず、 \( \vec{F} \) の \(x,y\) 成分を \( F_{x}, F_{y} \) とすると、(1)(2)式から、(5)(6)式が導かれます。

$$F_{X} = F_{x}\cos{ωt} – F_{y}\sin{ωt}\tag{5}$$

$$F_{Y} = F_{x}\sin{ωt} + F_{y}\cos{ωt}\tag{6}$$

(3)と(5)から(7)式、(4)と(6)から(8)式が導かれます。

$$m\ddot{X} = F_{x}cos{ωt } – F_{y} \sin{ωt} \tag{7}$$

$$m\ddot{Y} = F_{x}sin{ωt} + F_{y} \cos{ωt} \tag{8}$$

 ここで(7)(8)式を、\(F_{x}=\)、 \(F_{y}= \) の形に整理し直します。\((7)× \cos{ωt}+\normalsize{⑧}×\sin{ωt}\)および\(-(7) ×\sin{ωt}+\normalsize{⑧}×\cos{ωt}\) より、

$$F_{x} =m(\ddot{X}\cos{ωt} + \ddot{Y}\sin{ωt} ) \tag{9}$$

$$F_{y} =m(-\ddot{X}\sin{ωt} + \ddot{Y}\cos{ωt} ) \tag{10}$$

 つぎに \( \ddot{X}、\ddot{Y} \) を \((x,y)\) 座標に変換します。(3)(4)式を時間 t で2 回微分すると(11)(12)式になります。

$$\ddot{X} =\ddot{x}\cos{ωt} – 2ω\dot{x}\sin {ωt} -ω^{2}x\cos{ωt}- \ddot{y}\sin{ωt} -2ω\dot{y}\cos {ωt} + ω^{2}ysin{ωt} \tag{11}$$

$$\ddot{Y} =\ddot{x}\sin{ωt} + 2ω\dot{x}\cos {ωt} -ω^{2}x\sin{ωt} + \ddot{y}\cos{ωt} -2ω\dot{y}\sin{ωt} – ω^{2}ycos{ωt} \tag{12}$$

 (9)(10)式に(11)(12)式を代入し整理すると、

$$m \ddot{x}= F_x + mω^2x+2mω\dot{y}\tag{13}$$

$$m \ddot{y} =F_y +mω^2y-2mω\dot{x} \tag{14}$$

 つまり、回転座標系 K’ にすることによって右辺第 2 項と第 3 項が加わったことになります。この第 2 項が遠心力で、第 3 項がコリオリの力です。遠心力は物体が \(x\) 方向へ行くほど \(x\) 方向に力を受け、 \(y\) 方向に行くほど \(y\) 方向に力を受けます。つまり回転軸から遠ざかるほど、強く外側に力を受けることになるのです。一方、 \(\dot{x} \)、 \( \dot{y} \) は速度 \(\vec{v}\) の \(x,y\) 成分 ですから、 コリオリの力の大きさは \(2mωv\)となり、物体の \(x\) に向かう速度が速いほど、 \(-y\) 方向 に力が加わり、 \(y\) に向かう速度が速いほど、 \(x\) 方向 に力が加わる、すなわち、コリオリの力は回転軸に垂直な面で運動する物体の速度に比例し、進行方向の直角右側に働くことになります。

 この説明は観測者が北極に立つ場合ですが、物体の運動は任意なので、 北極以外からボールを投げる場合も包含しています。前述の「地球に円錐キャップを被せる」場合と組み合わせれば、中緯度における緯度方向の運動が南向きにそれる理由も説明しています。 ただし、コリオリの力の意味を実感できるかという点ではもう一つかもしれません。

(更新 2020/08/26)

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