CCS の技術が理解できたところで、世界の導入状況や日本における取り組み状況について見ていきましょう。
世界の導入状況
まず、世界の導入状況から見てみましょう。2021 年 9 月時点の世界の大規模 CCS プロジェクトは 135 件で、操業中のものが 27 件、建設中が4件、開発が進んでいるものが 58 件、開発の初期段階にあるものが 44 件、そして、操業を中断したものが 2 件です。この「大規模」の定義ですが、図で一番少ないのが 20 万トン CO2 / 年あたりなので、それ以上とかと思われます、回収量で換算すると、全体が 149.3 MtCO2 / 年、そのうち 操業中 36.6、建設中 3.1、開発が進んでいるもの 46.7、開発初期段階 60.9、操業中断 2.1 MtCO2/ 年です。実施場所は図 13-3-1 の通りです。海域の CCS プロジェクトはとても少なく、実施中はノルウェーの Sleipner と Snohvit の 2 件です。オーストラリアの Gorgon (西海岸の赤丸)が海域の様に見えますが、これは Barrow 島という島での実施です(図 13-3-4)。
「帯水層」については前回、お話しましたが、この帯水層を貯留層とした実施中のプロジェクトをいくつか紹介します。まず、ノルウェーの海域 CCS 2 件です。最初は Sleipner 。北海に位置し、開始が 1996 年ですから、CCS のパイオニアといってもいい存在です。天然ガス層から採ったガスをプラットフォーム上の設備で不純分である CO2 を除去して精製し、 CO2 は深度 800 m にある帯水層に圧入・貯留しています。そもそも天然ガスの純度アップのために「CO2 回収」している訳ですから、CCS のコストは貯留部分だけです。水深が 150 mと比較的浅いのでプラットフォームは着底式です。
つぎはノルウェーの Snohvit プロジェクトで位置はノルウェーの北の端です。オーロラで有名な場所です。Sleipner と同じく海域の天然ガス田ですが、水深が 330 m と比較的深いので、海岸そばの島に生産設備を作り、海底にある坑口と海底パイプラインで結んでいます。回収した CO2 は再びパイプラインで海域の貯留層に圧入します。海底に坑口を設ける世界で初めての CO2 貯留のケースです。これも CCS のコストは貯留部分だけです。
最後はオーストラリアの Gorgon プロジェクトです。これも天然ガス生産ですが、貯留量が 340 ~ 400 万トン/年ととても大きいです。ここの特徴は CO2 の圧入によって生じる地層の圧力を解除するため「汲み上げ用坑井」を設けていることです。この場合も CCS のコストは貯留部分だけです。
つぎの図 13-3-5 は世界の大規模 CCS プロジェクトの傾向をみるために、発生源別に整理したものです。横軸が年で、赤丸が実施中、紫が建設中、青が計画中のもので、円の大きさが量を表しています。主なプロジェクトについては名前を追加していますが、その時に前回でてきた石油増進回収 EOR は青字で、帯水層貯留は赤字にしています。さて、この図から何が言えるでしょうか? 箇条書きにしてみましょう。
- 初期のプロジェクトは天然ガスプロセッシングが中心
- 時間の経過とともに、発生源の種類が広がっている
- 初期のプロジェクトで量が多いのはEOR
- 時間とともに、帯水層貯留が増えている
天然ガスの生産では回収コストは天然ガスの精製コストの中に含まれており、CCS コストには入りません。また、EOR では石油が増産されるのでその分の収益が入ります。ですから、初期には CCS のコストが安価なところから実施されているのです。そして、政策支援によって、天然ガス採取から発電・産業へ、EOR から帯水層貯留へと、次第によりコストがかかる分野へ拡大していく姿が見えます。
日本の取り組み状況
では、日本の取り組みについて見ていきましょう。図 13-3-6 には 2019 年度以降の取り組みについてまとめてあります。これ以前にもさまざまな研究開発・調査が実施されてきました。この図の青の部分に「CCS技術の 2030 年までの商用化、社会実装を見据え」と書かれています。また工程表の一番右側は 「CCUS の社会実装」です。長らく CCS に携わってきた一人として、やっとここまで来たかと感無量です。2006 年に「CO2 固定化・有効利用分野の技術戦略マップ」の策定作業に携わったのですが、その時のロードマップの一番右は「実適用の拡大」でした。当時はこう書くのでやっとだったのです。やっと CCS も現実のものになろうとしています。
さて、これまでのさまざまな検討の成果を受けて、苫小牧において CCS の実証試験が実施され、前回お話しした CCS の賦存量調査からレベルアップして、いよいよ貯留適地の調査や輸送方法の検討が実施されています。簡単にそれぞれの内容がどのようなものか見ていきましょう。
まず、苫小牧のCCS大規模実証試験事業です。2016 ~ 2019 年で累計で 30 万トン CO2 を貯留しています。量は多いですが、残念ながらまだ実証段階の位置づけで、世界の「大規模プロジェクト」として上がるところまではいきません。発生源は製油所で、回収した CO2 を海域の帯水層に前回お話しした ERD 法で圧入しています。
事業内容は下記の日本 CCS 調査株式会社のホームページに詳しいです。また、動画も公開されているので参考にしてください。
適地調査については、図13-3-8 で 10 地点約 160 億トンの貯留可能量が推定されました。
輸送については図 13-3-9 の様に船舶輸送が検討されています。
最後に、工程表の③に「カーボンリサイクル」がありました。これは、下記で解説されいるように、苫小牧の CCS 設備を有効に活用してカーボンリサイクルに取り組み、CCS とカーボンリサイクルの連携を実証して、CO2 を削減・資源化する CCUS(CO2 の回収・貯留・利用)への新たな可能性を探っていく計画です。再生可能エネルギーから作った電気で水を電気分解して水素を作り、これで CO2 を還元してメタノールとする絵が描かれています。
経産省では 2030 年の CCS 事業化に向けた長期のロードマップを策定すべく、2022 年1月から「CCS長期ロードマップ検討会」を開催し、コスト低減や適地開発、事業環境整備といった様々な課題について、集中的に議論を行い、さらに9月から「CCS事業検討WG」「CCS国内法検討WG」を設置し、更なる検討を行ったうえ2022年末までにロードマップの最終とりまとめを行う予定とのことです。5 月にまとめた「中間とりまとめ(案)」が以下に公開されています。図 13-3-10 の様に、2050 年で 1.2 ~ 2.4 億トンの年間貯留量が想定されいます。
これらの開発・施策によって、2030 年には CCS を商用化し、世界水準の大規模プロジェクトが生まれる事を期待しましょう。