第1章海洋についての基礎 1.5 海は誰のものか?

 これまで海流、波、潮汐、潮流、温度差、塩分濃度差、海の生物といった海の諸相について述べてきました。潮汐と潮流は月等の天体との引力が運動エネルギーに変化したものですが、その他は太陽エネルギーによってもたらされたものです。この後、5 章から10 章ではこれらの海のエネルギーをどう取り出すかについて述べ、さらに、11 章から14 章では海の資源や海という場所をどう利用していくかについて述べたいと思っています。その前に、私たちの周りの海はいったい誰のものなのか? 私たちはどの範囲まで海を使うことができるのかについて調べておきましょう。

国連海洋法条約

 国が使える海の範囲は目的によって異なりますが、国連海洋法条約 (正式名称: United Nations Convention on the Law of the Sea(海洋法に関する国際連合条約)、アンクロスと読みます) という国際法によって定められています。国際法には国家間で合意された事柄を文書にしておく条約と、国際社会の慣行を基礎として暗黙の強制力をもつ慣習国際法があります。条約には法的拘束力がありますが、参加は自由なので、拘束を受けるのは参加国のみとなります。

 国連海洋法条約海の憲法とも呼ばれ、全 17 部 320 条という膨大な本文と 9 つの附属書から成っており、極めて包括的なものです。2018 年 3 月現在、167 の国と EU が締結しています。国連海洋法条約に定める領海、接続水域、排他的経済水域、公海などについての取り決めを以下に記します(図1.20)。

図1.20 国連海洋法条約で定められる領海、排他的経済水域等模式図
出典:海上保安庁海洋情報部
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ryokai/zyoho/msk_idx.html

領海( territorial sea )

 領海の基線からその外側 12 海里(約 22 km)の線までの海域を指し、沿岸国の主権が及ぶ領域です。この 22 kmという距離感ですが、東京ー新横浜が 23.4 kmですから、そんなに長い距離ではありません。領海は領土と同じように国の主権が及ぶ領域ですが、すべての国の船舶は、平和、秩序、安全を害することがないかぎり通航できる無害通航権を有しています。なお、ここにいう通航とは、領海内の通航もしくは内水への出入りのための通航であり、不必要な停船や投錨を行うことはできません。

接続水域( contiguous zone)

 領海の基線からその外側 24 海里(約44km)の線までの海域(領海を除く)です。接続水域では、沿岸国が自国の領土又は領海内における通関、財政、出入国管理(密輸入や密入国等)又は衛生(伝染病等)に関する法令の違反の防止及び処罰を行うことが認められています。つまり、国内の法令違反を起こしそうな船が入ってきた場合に、監視や警告を行うなどの予防措置をとれるわけです。

排他的経済水域(Exclusive Economic Zone, EEZ)

 領海の基線からその外側 200 海里(約 370 km)の線までの海域(領海を除く)ならびにその海底及びその下をいいます。この 370 kmという距離ですが、東京-京都間が 373 km ですから、かなり距離がありますね。この排他的経済水域においては、沿岸国に以下の権利、管轄権等が認められています。

  • 天然資源の探査、開発、保存及び管理等のための主権的権利
  • 人工島、施設及び構築物の設置及び利用に関する管轄権
  • 海洋の科学的調査に関する管轄権
  • 海洋環境の保護及び保全に関する管轄権

 つまり、排他的経済水域は、沿岸国の経済的な主権が及ぶ領域で、水域と海底とその下の天然資源の探査、開発に主権的権利を有していおり、また海水中の水産資源および海底の鉱物資源に対し権利を行使できるわけです。

公海( the high seas )

 国連海洋法条約上、公海に関する規定は、いずれの国の排他的経済水域、領海若しくは内水又はいずれの群島国の群島水域にも含まれない海洋のすべての部分に適用されます。公海はすべての国に開放され、すべての国が公海の自由(航行の自由,上空飛行の自由、漁獲の自由、海洋の科学的調査の自由等)を享受します。

大陸棚( continental shelf )

 領海の基線からその外側 200 海里(約 370 km)の線までの海域(領海を除く)の海底及びその下とします。大陸棚は原則として領海の基線から 200 海里ですが、地質的及び地形的条件等によっては国連海洋法条約の規定に従い 350 海里まで延長することができます。延長は「大陸棚限界委員会」に申請し、その勧告に従うことになります。大陸棚においては、大陸棚を探査し及びその天然資源を開発するための主権的権利を行使することが認められています。つまり、大陸棚では、沿岸国は海底とその下の天然資源の探査、開発に権利を有しているといえます。ただし、海底の鉱物資源や海底に定着性の生物資源が対象で、海水中の資源については対象外となります。

深海底

 深海底及びその資源は「人類共同の財産」と位置付けられていて、いずれの国も深海底又はその資源について主権又は主権的権利を主張又は行使できません

海洋立国日本

 最後に、わが国の領海、排他的経済水域などの数字をまとめておきますが、これらの数字を見る限り、わが国はまさに海洋立国日本といっても過言ではないでしょう。

 日本は合計 6,852 の島からなっています。これだけ多くの島からなる国はインドネシア、フィリピン以外は他にはありません。海岸線の長さも 35,000 kmもあります。

 わが国が管轄している領海と排他的経済水域の総面積は 447 万平方キロメートルもあり、世界で第 6 位であり、日本の国土面積の 12 倍に達しております

  • 国土面積:約 38 万 km2
  • 領海(含:内水):約 43 万km2
  • 接続水域:約 32 万km2
  • 排他的経済水域(含:接続水域):約 405 万km2
  • 延長大陸棚※:約 18 万km2
  • 領海(含:内水)+排他的経済水域(含:接続水域):約 447 万km2
  • 領海(含:内水)+排他的経済水域(含:接続水域)+延長大陸棚   : 約 465 万km2
図1.21 わが国領海、接続水域、排他的経済水域、および延長大陸棚
出典: 海上保安庁海洋情報部
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ryokai/ryokai_setsuzoku.html

第1章の参考図書

  • 柳哲雄「海の科学 海洋学入門[第3版]」 恒星社厚生閣(2011)
  • 柏野祐二「海の教科書 波の不思議から海洋大循環まで (ブルーバックス)」講談社(2016)
  • Mark Denny(保坂直紀 訳)「気象と気候のとらえかた きまぐれな大気の物理を読み解く」丸善出版(2018)

(更新 2020/08/26)

タイトルとURLをコピーしました