第 12 章は海洋資源の第 3 弾で、「鉱物資源」を取り上げます。経済産業省の「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」でターゲットとされている「海底熱水鉱床」「コバルトリッチクラスト」「マンガン団塊」「レアアース泥」について順に勉強していきますが、その前に海洋鉱物資源がなぜ期待されているのかについて考えて見ましょう。
海洋鉱物資源への期待
2020 年 3 月に経済産業省は「新国際資源戦略」を発表しました。その後、ウクライナ戦争で状況が急変し、かなりの書き換えが必要だと思われますが、その中に「レアメタル等の金属鉱物のセキュリティ強化」があげられています。資源エネルギー庁のホームページでは、この内容をわかりやすく解説しています。
ここからポイントを抜き出してみましょう。
- ハイテク製品にはレアアース(希土類)・レアメタル(希少金属)が欠かせない! 産出量が少なかったり、抽出がむずかしい希少な金属「レアメタル」をはじめとする鉱物資源は、電気を動力源とする電動車(xEV)をはじめ、AI 搭載機器や IoT 機器などの先端産業において必要なリチウムイオン電池やモーター、半導体等の部品などの生産に必要不可欠。
- 日本ではレアメタルのほぼすべてを輸入している
- レアメタルを産出する国に偏りがあり、政情不安のある国から産出されるものも多い
- レアメタルは市場が小さいため、価格変動が大きく、副産物として生産されるので、供給が安定しない。また、一部のレアメタルでは将来的に需要が供給を上回る「需給ギャップ」が生じ、欧米や中国、そのほか新興国との間で資源獲得競争が激化することも予想される
- 鉱種によって市場の規模や価格、主要生産国がさまざまであるため、鉱種ごとの戦略的な資源確保策を策定する必要がある(リチウムイオン電池に使われる「コバルト鉱石」生産の約 64 % はコンゴ民主共和国に偏在、特殊鋼などの生産に必要な「タングステン」は 9 割以上、リチウムイオン電池や半導体の加工などに利用される「蛍石」は 6 割以上が中国、xEV の普及でますます需要増が見込まれる「レアアース」においては、日本はおよそ 6 割を中国から輸入)
- 鉱山開発や製錬、製品製造などサプライチェーンの各段階に関係する各国と国際協力を強化
と、こんな具合です。レアメタル、レアアースといった言葉が出てきましたが、これらが具体的にどんなものなのか整理しておきましょう。図 12-1-1 は元素の周期律表です。このうち、赤で示した 6 つ(アルミ、鉄、銅、亜鉛、スズ、鉛)がベースメタルで、産出しやすいので多量に使われている金属です。ベースメタル以外の金属が「レアメタル(希少金属)」ですが、このうちの赤い線で囲んだ 17 元素は「レアアース(希土類)」と呼ばれ、先端技術を用いた製品には不可欠な素材なのです。このレアアースという名前は、比較的希な鉱物から得られた酸化物から分離されたことに由来しているとのことです。

日本は鉱物資源の安定供給を確保するために、つぎの 5本柱の政策を総合的に実施しています。
- 海外資源確保の推進
- 備蓄
- 省資源・代替材料の開発
- リサイクル
- 海洋資源開発
ということで、「海洋資源開発」がでてきました。海底石油・天然ガスの採取が経済性を持つようになり、また科学技術の進歩に伴って、海底鉱物資源の探索・採取のコストが安くなっきています。海洋における鉱物資源の確保に大きな期待が寄せられているわけです。
現在までに確認されている海洋鉱物資源
現在までに確認されている海洋鉱物資源を図 12-1-2 に示しました。海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、そしてレアアース泥です。図ではマンガンクラストとなっていますが、このうちコバルトを多く含むものをコバルトリッチクラストと呼んでいます。それぞれ資源の存在状況(産状)や水深が異なっていますので、それぞれの状況に合わせた技術開発を必要とします。

図 12-1-3 はこれらの資源の分布状況を示したものです。わが国 EEZ のかなり端まで分布していますね。では、これらの資源について、詳しく調べていきましょう。

参考資料
資源エネルギー庁「日本の新たな国際資源戦略 ③レアメタルを戦略的に確保するために」https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/kokusaisigensenryaku_03.html
資源エネルギー庁「世界の産業を支える鉱物資源について知ろう」https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/anzenhosho/koubutsusigen.html