第11章 海洋エネルギー資源 11.2 日本の海底石油・天然ガス開発

 ここでは、日本周辺のどのあたりで石油・天然ガスが採れる可能性があるのか、海底石油・天然ガス開発の手順と技術、日本における開発状況について勉強していきたいと思います。

日本の堆積層分布と油ガス田

 JXTG 石油便覧によれば 2018 年度のわが国における石油・天然ガスの生産量は、石油が 496 千kL、天然ガスが 26.6 億 m3 で、輸入量がそれぞれ 177,043 千kL、1,037 億m3 ですから、海外依存度は石油が 99.7 %、天然ガスが 97.5 % となります。国産の石油・天然ガスはとてもわずかです。

 図 11-2-1 の赤丸が油ガス田の場所で、「堆積盆地」(黄色の帯)とともに示しています。堆積盆地とは、「日本大百科全書」によれば、「盆状地に限らず地層が厚く堆積している凹地のこと。通常、継続的に沈降している間に、厚く堆積物で埋積された同時堆積盆地 synsedimentary basin のことをいい、堆積盆ともいう」となっています。前回の石油・天然ガスの成因の話を思い出してください。有機物が沈降して堆積し、これが地下深くに沈み込んで分解したのが石油・天然ガスでした。ですから、堆積盆地を探せば石油や天然ガスが見つかる可能性があるわけです。確かに図 11-2-1 のわが国の油ガス田は堆積盆地の中にあります。新潟から秋田の海岸線、北海道から千葉に至る太平洋側の堆積盆地で油ガス田が見つかっています。では、他にないのだろうか? 可能性のある地点を探す努力が続けられています。

図11-2-1 日本の堆積盆地と油ガス田(上記出典に筆者追記)

海洋基本計画等における海洋エネルギー資源開発

第5章 海洋エネルギー概論 5.4 海洋エネルギーについての日本の動き」のところで、「海洋基本計画」について説明しました。2013 年の「第 2 次海洋基本計画」には、海洋エネルギー開発について、以下の様に書かれています。

(1)海洋エネルギー・鉱物資源の開発の推進(抜粋)

 広大な我が国管轄海域における海洋エネルギー・鉱物資源の賦存量・賦存状況把握のため、海洋資源調査船「白嶺」三次元物理探査船「資源」、新たに建造される海底を広域調査する研究船等に加えて、主に科学掘削を実施している地球深部探査船「ちきゅう」の活用も含め、関係省庁連携の下、民間企業の協力を得つつ、海洋資源調査を加速する。

 広域科学調査により、エネルギー・鉱物資源の鉱床候補地推定の基礎となるデータ等を収集するため、海底を広域調査する研究船、有人潜水調査船、無人探査機等のプラットフォーム及び最先端センサー技術を用いた広域探査システムの開発・整備を行うとともに、新しい探査手法の研究開発を加速するなど、海洋資源の調査研究能力を強化する。

 資源開発の産業化を推進するとともに国際競争力を強化するため、関係府省の連携の下、海洋エネルギー・鉱物資源関係の調査・探査・研究開発等の成果を集約するとともに、我が国の有する他の分野の先端技術を結集して資源開発に活用する

同石油・天然ガスの部分

 日本周辺海域の探査実績の少ない海域において、石油・天然ガスの賦存状況を把握するため、三次元物理探査船「資源」を活用した基礎物理探査(6,000km2/年)及び賦存可能性の高い海域での基礎試錐を機動的に実施する。

 「資源」による基礎物理探査や平成25年度に実施する新潟県佐渡南西沖の基礎試錐の成果等を民間企業に引き継ぐことにより、探鉱活動の推進を図る。

(太字は筆者)

 いろいろな船を使って賦存量の把握を行い、基礎データを採取しようとしていることが分かります。図 11-2-2 には、国の海洋エネルギー・資源開発の体制を示します。首相がトップでその下に「内閣府総合海洋政策本部」があり、ここに経済産業省と文科省がぶら下がっています。それぞれ、「石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)」「海洋開発機構(JAMSTEC)」という組織を有しており、これらが先ほど名前の出てきたいろいろな調査船や掘削船(赤字)を有しています。

図11-2-2 海洋エネルギー・資源開発体制

基礎物理探査」とか「基礎試錐」といかいう言葉が出てきます。つぎの「第 3 次海洋基本計画」を受けた 2019 年の「海洋エネルギー・資源開発計画」では工程表が示されています(図11-2-3)。国の基礎物理探査や試掘は 2028 年度まで続けられ、我が国周辺海域における詳細な地質情報を取得することになっています。さらに地質情報を民間に提供して、民間石油天然ガス開発企業による探鉱・開発促進につなげていく考えです。

図11-2-3 石油・天然ガスの探鉱・開発に向けた工程表

 では、具体的にどんな事をしようとしているのか? 海底石油・天然ガスの開発の手順と技術について勉強した上で、現状の探査状況について調べていくことにしましょう。

海底石油・天然ガス開発の探鉱手順と技術

図11-2-4 石油開発における探鉱の流れ

 金属・非金属鉱床や石炭層・石油鉱床を探り、その位置・形・品位・埋蔵量などを調査することを「探鉱」と呼びます。日本における海底石油・天然ガス開発は現在この探鉱段階です。図 11-2-4 にこの手順を示します。赤く色づけした部分ですが、地質・航空写真・地化学調査を行い、地表地質の分布等から候補となる場所がどこか推測した後で行うのが「物理探査」です。

 物理探査とは、地球の内部構造やは地下資源を直接触れることなく、物理的な性質を手がかりとして間接的に探査する技術のことで、いろいろな方法がありますが、石油・天然ガスでよく使われるのは地震探査で、補完的に重力探鉱、磁力探鉱などが使用されます。

  • 地震探査:人工的な発振源から地震波を発生させ、そこから一定距離を離れた受振点で反射波や屈折波を観測して、地下の構造や物性分布を推定。石油・天然ガスではこれが中心
  • 重力探査・磁力探査:重力や磁力の偏差を陸域や海域において測定し、鉱床の存在可能性を推定

地震探査

  図11-2-5 を見て下さい。船に取り付けたエアガン(空気圧縮装置で圧縮した空気を水中で一気に放出し、周りの海水を大きく振動させる)で海中で人工的に地震波(音波、弾性波)を発生させます。これが地下を伝播していく過程で、物性が変化する境界(海底面や地層境界面)で微弱なエネルギーが反射されます。この微弱な反射波を計測し処理することで地下構造を調べます。図では岩石からなる基盤層の上に堆積層がありますが、この二つは物性が相当異なるので反射波を解析すれば、どの程度の深さに境界があるか分かります。これは音響測深機や魚群探知機と同じ原理です。測定器は図のストリーマと書かれている部分で、船尾から曳航したケーブルに多数の受振器がついています。船を走らせながら反射波を測定していきます。

図11-2-5 海上での地震探査

 図 11-2-5 の一組のエアガンと一本のストリーマケーブルを用いた場合には、船の通過した断面に沿った二次元のデータ(図 11-2-6 の左側)が得られます。これを二次元探査といいます。

 一方、一つの探査船にストリーマケーブルを複数、間隔を開けて配置する(図 11-2-7 の右上の写真)と、一度にある狭い幅を持った短冊状の三次元探査のデータが得られます。この短冊状のエリアの幅だけ左右に移動させて、つぎのデータを取得し、これを繰り返していくと、最終的に調査海域全体をカバーする三次元のデータ(図 11-2-6 の右側)が得られます。これを三次元地震探査といいます。

図11-2-6 地震探査の記録断面
図11-2-7 物理探査船

 図 11-2-7 に経済産業省が保有し、JOGMEC が管理する物理探査船の写真を示します。上の写真が「資源」です。複数のストリーマケーブルですから三次元物理探査船ですね。下の写真は新しく建造された三次元物理探査船の「たんさ」で、「資源」に代わり 2019 年 4 月から導入されています。

試掘

 油・ガス層が本当に存在するのか、またどのくらい層が広がっているのかは物理探査では分かりません。そこで実際に井戸を掘って調べることになります。これが「試掘」です。「試錐」という言葉も用いられます。

 掘削装置の概要を図 11-2-8 に示します。ドリルパイプの先端に取り付けたビットを回転させて岩石を粉砕し、泥水を循環させて掘った屑を取り除きながら地層を掘り進みます。この掘削装置を「掘削リグ」と呼びます。掘削リグには、海底に脚を固定する「着底式」と浮体を利用した「浮体式」があります。図は「浮体式」ですね。

図11-2-8 掘削リグ
(出典:国土交通省「海洋開発産業概論 第二版)

 さて、海洋基本計画に、地球深部探査船「ちきゅう」というのが出てきましたが、これら掘削リグを積んだ一種のドリルシップです。最大掘削水深が 2,500 m ですから超大水深海域でも使用できます。

図11-2-9 地球深部探査船「ちきゅう」

日本での探査状況

 では、日本の探査状況はどうなのか? 実はこの「基礎調査」ですがかなり昔から実施されています。図 11-2-10 は平成19~29年度の物理探査地点を示したものです、先ほどの船「資源」が使われています。

図11-2-10 平成19~29年度の物理探査地点

 有望な地点については試掘が行われています(図11-2-11)。図11-2-12 には最近の試掘(基礎試錐)の実施場所を示します。そして、最後の図 11-2-13 はその結果です。

図11-2-11 平成3年以降の試掘地点
図11-2-11 2010年以降の基礎試錐実施地点
図11-2-13 2013年以降の基礎試錐の結果

 2016 年の島根・山口沖で有望な結果が出ました。今年の 1 月、つぎのニュースが出ます。なんと 30 年振りで石油・天然ガス田開発の前段階となる試掘を指す探鉱事業を始めるというのです。

国内海洋ガス田30年ぶり新規開発へ 島根・山口沖 令和14年生産開始目指す
石油・天然ガス開発の国内最大手であるINPEXは17日、3月から島根・山口沖で、石油・天然ガス田開発の前段階となる試掘を指す探鉱事業を始めると発表した。探鉱や…

 期待を込めて、この文を書いていたら下記を見つけました。

島根・山口沖の海洋ガス田 商業生産に至らず 年度内に再調査を判断
石油・天然ガス開発大手のINPEX(インペックス)は2日、島根と山口両県の沖合で実施していた天然ガスと石油の試掘調査を8月26日に終了したと発表した。天然ガス…

 なかなか難しいものですね。場所を変えてで再調査するとのことなので、その結果に期待しましょう。

参考資料

  • 国土交通省「海洋開発産業概論(第二版)」(2019)
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