第9章 海洋温度差発電(OTEC) 9.4海洋温度差発電の特徴と課題

 OES “White Paper Ocean Thermal Conversion OTEC” (2021)から、海洋温度差発電の特徴、利点、課題に関する記述を紹介したいと思います。最後に OTEC のまとめをつけておきます。

OES “White Paper Ocean Thermal Conversion OTEC” (2021) の SUMMARY OF KEY POINTS

  • 海洋温度差発電は大きな可能性を秘めたベースロード電源熱帯の海は広大な太陽集熱器として機能し、OTEC のプロセスにより、これを 24 時間 365 日、中断することなくクリーンな電力に変換することができます。OTEC の出力は世界全体で最大 8,000 GW にもなることが、保守的な仮定を用いて計算されています(Nihous, 2018)。これは、世界の現在の電力生産量を超えるものです。 このように、OTEC はエネルギー転換のプロセスや世界の脱炭素化に大きく貢献する可能性を秘めています
  • 淡水の生産など、その他のOTEC副産物:海洋温度差発電は、発電に加えて、発電過程で淡水も生産することができます(訳注:オープンサイクルの場合)。 多くの熱帯地域にとって、淡水は希少で重要な資源です。また、海洋深層水には養分が豊富に含まれており、これを利用した養殖も盛んです。海洋温度差発電の冷却水は、大規模な空調に利用することができ、一般的な空調の消費電力の 90 % 程度を削減することができます。また、冷水を温度管理された農業に利用することもできます。 特に深海域での浮体式海洋温度差発電では、栄養豊富な深層水を汲み上げて(人工湧昇)藻類の生産を促進し、大気中の二酸化炭素を除去する(CDR)ことが期待されます。
  • ハワイと日本で実証されたシンプルで信頼性の高い技術:海洋温度差発電のプロセスはシンプルで、作動圧力も比較的低いのです。 ハワイや日本の久米島で稼働している OTEC プラントのように、単純であることは一般的に高い機器稼働時間と高い信頼性につながります。このように、現在は比較的小規模ですが、フィールドでの実績は確立しています
  • 最小限の設置面積と耐久性:風力発電(陸上・浮体)や太陽光発電(陸上・浮体)とは異なり、海洋温度差発電は設置面積が小さいのが特徴です。 石油やガスの浮体式生産の経験から、浮体式設備は耐久性があり、長持ちすることが実証されています。 浮体式海洋温度差発電設備は、必要に応じてドック入りすることができるため、設備の寿命を延ばし、困難で危険な海域での船体メンテナンスとプロセス機器のオーバーホールのコストを削減することができます。
  • 小島嶼国(SIDS)における 2.5MW を超える多品種生産 OTEC の可能性:実証済の現状のパイプライン技術は、島をベースとした 2.5 MW のシステムが今日でも実現可能であることを示しています。クリーンエネルギー、グリーンエネルギー、淡水、水産養殖、空調などを含む多品種エコリゾートは、SIDS にとって魅力的なコンセプトですが、このようなシステムが資本投資に対して許容できる利益を示すためには、通常、固定価格制によるサポートが必要です。これは、出力が比較的小さい割に、必要な海水パイプラインのコストがかなり高いからです。 現在のパイプラインのサイズ制限は、標準的な機器を使用することで導入コストを最小化することに関係しています。より大きなパイプも可能ですが、導入コストが急激に上昇する可能性があります。
  • 10 MW の浮体式海洋温度差発電は技術的に可能だが、まだ商業的ではない : 浮体式液化天然ガス(FLNG)を含む石油・ガスの深海域での浮体生産市場における過去 15 年間の著しい技術開発を考慮すると、正味 10 MW の浮体式海洋温度差発電プラントを建設することは現在、技術的に可能であると判断されます。しかし、この程度の出力では、民間企業にとって魅力的なプロトタイプとなることは難しいのです。固定価格買取制度があれば、投資家はより積極的にこのようなプロジェクトに参加することができるでしょう。
  • 2.5 MW 以上の実証設備に必要な政府の支援:現在、既存のエネルギー企業やインパクト・インベスターは将来性があり、技術的リスクが低いと思われる再生可能エネルギープロジェクトに積極的に投資しています。 したがって、2.5 MW 以上の規模で、最低 1 ~ 2 年間、運転性能データを取得するための実証プラント建設を奨励する国際政府の支援が必要です。この支援は、固定価格買取制度や、低金利ローン、沿岸土地の無償利用、政府の海洋調査船の利用、海軍の設置支援など、他の財政的インセンティブを通じたものであってもよいでしょう。
  • 100 MW 以上へのスケールアップに必要なこと:現在、浮体式海洋温度差発電プラントを 100 MW 以上にスケールアップするための主な課題は、大口径の冷水取水管が設置可能で、長期にわたって信頼性を証明できることを確信できるようにすることです。実際には、10 MW の浮体式海洋温度差発電プラントを建設・運用した経験から、エンジニアや材料の専門家は、より大規模なプラントに適した設計を特定することができます。 また、10 MW の浮体式海洋温度差発電プラントで得た経験により、建設前に大規模な設計案を数値的に評価するための正確なシミュレーションを開発することが可能になります。
  • 海洋温度差発電の長期的可能性:投資収益が魅力的であれば、係留しない大規模な「放牧型」の海洋温度差発電船 の長期的な可能性は非常に大きいです。この場合、水素、アンモニア、メタノールを沖合で合成し、FPSO と同様の専用シャトルタンカーで 輸送する必要があります。造船所や石油・ガスメーカーなどの既存のインフラを浮体式海洋温度差発電施設に再利用することができます。 したがって、二酸化炭素排出量の削減を含め、経済的機会は非常に大きいのです。海洋温度差発電船、タービン、ポンプ、海水パイプ、そしてアンモニアやメタノール(水素)を運ぶシャトルタンカーの連続生産のために造船所やメーカーを最適化できるでしょう。
  • OTEC の可能性と利点に関する広報と教育の必要性:比較的高い資本コストの見積もりが OTEC の商業開発を妨げてきましたが、もう一つの重要な要因は、一般市民、政府、投資家における知識と理解の不足でした。 炭化水素からのエネルギー転換に必要な規模を達成するための大きな課題を考えると、OTEC とその潜在的な可能性はもっと認識されるべきであり、またされる必要があることは明らかです。これは、この主要なグリーン電力資源の採用を加速するための固定価格買取制度のような措置への支持を集めるのに役立つでしょう。
  • 環境・生態系への影響:放流水が同等の水深で放出される場合、長期にわたる海洋への環境・生態学的影響は無視できると想定されます。既存の小型発電所では悪影響は見られませんが、規模拡大やその影響については、さらに詳細な調査が必要です。

OTEC のまとめ

 最後に OTEC について、私なりにまとめておきます。

  • OTEC は安定した発電出力が得られる再生可能エネルギーである
  • 発電の効率は温度差が 20 ℃ 程度と小さいことから低い。このため、大型の装置となり、コストが高く、規模を大きくしないと事業として成立しない
  • 実証機は久米島(2013、100kW)、マカイ(2015、105kW)の後がなかなか続かなかったが、ようやくキリバスでの 1 MW プロジェクトが進行している
  • プロジェクトの計画はあるが、なかなか進まないのが現状。日本においても久米島以降の動きは鈍い。コストが高いことが進まない一因。一方、カリブ海のLa Martinique の10 MW プロジェクトはアンモニア使用問題で住民の反対があり中止された。安全性に関する十分な広報が必要である
  • 提案は島嶼地域でのプロジェクトが中心。島嶼地域では電力はほぼディーゼル発電なので、コスト的に有利であるし、置き換えによる環境メリットは大きい
  • 海洋深層水利用等との複合化メリットを追求すべきであろう。
  • 海域において他の再生可能エネルギーなどと複合化させることも、魅力的なプロジェクトを産むのに役立つ

商船三井が海洋温度差発電 25年稼働、洋上風力より安く

商船三井が「海洋温度差発電」の実用化に乗り出す。海の表面と深層で海水の温度が大きく変わる点を利用して発電するもので、再生可能エネルギーの一つだ。2025 年ごろに出力 1000 キロワット規模の発電所の稼働を目指す。既存設備を活用することで発電コストを洋上風力より安くする。多くの場所に展開できればエネルギー源の多様化につながる。

日経イブニングスクープ 2022年3月29日

 2022 年 3 月に上のニュースが出ました。さらに商船三井は 2022 年 4 月より、ゼネシスが維持管理を行う沖縄県久米島での 100 kW 級 OTEC 実証設備の運営に参画し、7 月にはゼネシス、佐賀大学と共同で取り組むモーリシャスにおける海洋温度差発電を核とした海洋深層水複合利用に関する実証要件適合性等調査(NEDO事業)についてリリースしています。今後の展開が楽しみです。

(更新 2022/10/29)

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