第9章 海洋温度差発電(OTEC) 9.2海洋温度差発電のパーフォーマンスとコスト

  

 前回は海洋温度差発電の原理・ポテンシャル・発電出力について説明しました。今回はまず、沖縄県久米島で実施された実証試験の結果について説明し、そのあとコストについて考えます。

久米島での実証試験

 海洋温度差発電にについては、日本では佐賀大学を中心に長い研究の歴史があり、技術面で世界に先行しています。「NEDO再生可能エネルギー技術白書(第2版)」によれば、「日本の海洋温度差発電技術の優位性は、コア技術となる海洋温度差に特化した熱交換器、世界最高レベルの効率を誇る発電サイクル(ウエハラサイクル:1994 年上原ら)、システム制御技術およびそれらを組み合わせた高度なプラントシステムの設計技術にある。また、日本は海洋深層水の汲み上げ実績で世界トップレベルであり、取水技術の信頼性は高い」とのことです。これらの研究成果をもとに、沖縄県久米島に実証試験プラントが建設され、2013年 4 月には実海水を用いた実証試験が開始されました。久米島町では 2000 年に「沖縄県海洋深層水研究所」を開設して取水を開始して以来、海洋深層水の低水温・清浄性・富栄養性などの特徴を生かして島の産業の振興や育成に取り組んでいて、この取水ラインから分岐した海水を発電プラントで使用しています。

図 9-2-1 沖縄県久米島100kW設備(出典:沖縄県)

 久米島実証プラント(図 9-2-1)に関する動きを下記にまとめます。現在、プラントは久米島町によって運営されています。

  • 2012 年度 実証設備建設(IHI プラント建設・ゼネシス・横河ソリューションサービス)
  • 2013 ~14 年度 実証設備運転管理・調査(同上)
  • 2014 年 7 月 海洋再生可能エネルギー実証フィールド(海洋温度差)として認定
  • 2015 年度~ ゼネシスが運転継続
  • 2020 (R2) 年 2 月 久米島町「海洋温度差発電および発電利用後海水複合利用に関する利用実証業務」の開始(本設備を使用)

 実証試験設備及び試験内容は次の通りです。

  • 実証試験の目的:熱サイクル効率、熱交換器(蒸発器・凝縮器)性能、制御性の性能確認
  • 表層水・深層水:既存の利用業者への供給ラインから分岐(このため、取水ポンプの動力が計算できない)
  • 深層水:取水ポンプ 6,500 t /日 × 2 基、平均 8 ~ 9 ℃
  • 表層水:取水ポンプ 13,000t/日×1 基、夏平均 29 ℃、冬平均 22 ℃

 実証試験設備(ユニットA)

  • タービン発電機:最大発電端出力 50 kW
  • 蒸発器:高効率のチタン製全溶接式プレート式熱交換器ユニット
  • 凝縮器:高効率のチタン製全溶接式プレート式熱交換器ユニット
  • 作動流体:フロン系 R134a(HFC-134a)

 実証試験設備(ユニットB)

  • 深層水・表層水熱交換器やタービン等、要素機器に関する小型実験プラットフォームとしての機能を果たすことを目的として設置。ユニット A と同サイズの発電ユニットを設備し、ユニット A と同じ温度・流量条件での試験が可能

 平成 31 年度の報告書をもとに久米島プラントでの実証試験結果を整理したのが図 9-2-2 です。

図 9-2-2 久米島プラントの結果
(久米島海洋深層水高度複合利用実証共同事業体委託業務報告書(平成31年)を基に筆者作成)

 海水温度差 20.4 ℃ に対して、タービン発電機の出力として 15.4 kW が得られています。作動流体のポンプの消費電力が 2.2 kW なので、このシステムの \(P_{overa ll}\) は 13.2 kW です。問題は表層水と深層水のポンプの動力ですが、このプラントでは既存のラインから分岐して海水を得ているため残念ながら計算できません。

 実証試験の結果をもとに、1000 kW = 1 MW の出力のプラントを設計した結果を図 9-2-3 に示します。

図 9-2-3 1MW海洋温度差発電プラントの設計
(出典:久米島海洋深層水高度複合利用実証共同事業体委託業務報告書(平成31年)に追記)

 発電端の出力が 1750 kW、表層水・深層水・作動流体ポンプの動力合計が 480 kWで、出力がポンプ動力をはるかに上回っていることが分かります。この場合の、送電端出力/発電端出力 = 0.67 となります。

 また、1MW 級 OTEC プラントの運転・維持管理費の推算が行われ、運転管理費が 4.2 円 / kWh 程度、発電コストは 29.7 円 / kWhと報告されています。

海洋温度差発電のコスト

 コストの話が出てきたところで、世界で検討されている海洋温度差発電のコスト結果をまとめておきましょう。

 図 9-2-4 は、10 MW と 100 MW の OTEC システムの平準化エネルギーコスト(LCOE)を、太陽光、風力、ガス、 原子力、石炭と比較したものです。 この表からいくつかのことが分かります。第一に出力規模が大きくなれば LCOE が相当下がり、火力より小さくなる場合もでてきます。第二に 100 MW 規模でも OTEC の LCOE は太陽光や風力よりも高くなっています。ただし論文は 2020 年のものですが元データがかなり古く一般的には 2011 年から 2012 年に遡りますので、コスト試算が大きく変わる可能性があります。

図 9-2-4 OTECプラントのLCOEと他の再生可能エネルギーおよび従来型エネルギーとの比較(Langer, J., 2020) 出典:OES “White Paper Ocean Thermal Conversion OTEC” (2021)

 もうひとつは、すでに出てきた海洋エネルギーのコスト比較です。10 ~ 20 MWのスケールでの LCOE は 350 ~ 650ドル / MWh と算出されています。これが、商用レベルの 100 MW スケールになると 150 ~ 280 ドル / MWhまで下がり、他の海洋エネルギーと大差なくなることが示されています。

図 9-2-5 海洋エネルギーのコスト比較

先ほどの日本のコストですが、2015 年の為替レートが 120 円/ドル程度ですので、ドル換算すると 247.5 $ / MWh ですから、1MW プラントとしては安価だと考えられます。

この様に OTEC のコストは風力・太陽光よりやや高いとはいうものの、設備利用率がほぼ 100 % ですから、ベース電源として使えます。これは非常に大きなメリットです。

(更新 2022/10/29)

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