第10章 海洋バイオマス 10.2 微細藻類とバイオディーゼル油・バイオジェット燃料

 今回は微細藻類からバイオディーゼル油やバイオジェット燃料するプロセスについて考えます。微細藻類からの燃料製造プロセスの中ではこれがメインです。最初は「ディーゼル油」用途がターゲットでしたが、ディーゼル車の需要が地球温暖化防止の観点から有望ではなくなったため、対象が「バイオジェット燃料」に変わります。

 微細藻類の利用には「培養」が必要ですから、海から採取した藻類から目的に適合するもの選び出し、陸上に設備を作って大量培養するという構図になります。もちろん、海上に浮体式の培養設備を設けることも可能ですが、コスト高になりますし、維持・管理が難しいため、そういう話はほとんど聞きません。

微細藻類のオイル生産

 海洋において微細藻類は光合成作用により CO2を固定し、代謝過程により、さらに様々な物質に変換して細胞増殖しています。藻類(植物プランクトン)は原生動物の餌となり、さらにこれを餌に動物プランクトン、そして魚類、哺乳類が育ちます。このような食物連鎖のおかげで、いろいろな生物が海で生きることができるのです。藻類はその出発点、海洋生態系の重要な一次生産者なのです。

 さて微細藻類には多くの種類がありますが、このうち細胞核がある「真核微細藻類」は脂質合成系が発達しており、細胞内にオイルボディーと呼ばれる油滴を蓄積します。そして、種によっては自分の重量の半分を超えて油を蓄積するものが存在するのです。図 10-2-1 にさまざまな真核微細藻類のオイル含有量を大豆やパームと比較したものを示します(その種に目をつけた日本の研究グループも併せて示しています)。大豆やパームのオイル含有量は乾燥重量当たりそれぞれ 18、36 % 程度ですから、それをはるかに超えるオイル含有量が得られています。これらの油滴の多くはトリグリセリドで、メチルエステル化すればバイオディーゼル(BDF)へ利用できますが、ただオイル含有量だけみても、BDF に適するかどうかは判断できません。

図 10-2-1 真核微細藻類とオイル含有量

 微細藻類は成長速度が大きいので、単位面積あたり多くの油が採れることが期待できます。藻類からの BDF の生産性はパーム油の数倍にあたる 4.7 x 103 ℓ/ha/年(0.0047ℓ/m2 /年)に達する可能性があるとの記述が IPCC の再生可能エネルギー特別報告書(SRREN)にあります。一方、2015パーム油白書ではパームの単位面積あたりのオイル収量は 3 ~ 4.4 t / ha / 年となっています。パーム油の密度は 9.2 ~ 9.5 なので、容積換算すると 3.2 ~ 4.8 x 103 ℓ / ha / 年ですから、同じ水準からやや大きい程度という計算になります。一方、NEDO によれば、パームが 5,940 ℓ / ha / 年、微細藻類が 3,800 ~ 50,800ℓ / ha / 年となっていますので、0.6 ~ 8.6 倍となります。

微細藻類からの燃料製造技術

 では、微細藻類からどのように液体燃料を工業的に製造していくのか? その流れを見ていきましょう。図 10-2-2 に微細藻類由来バイオ液体燃料の製造工程の例を示します。まず、油脂の生産量が大きく、かつ工業生産に適した藻類を探索育種します。そののち、大規模培養を行い、藻体を回収して乾燥・破砕後、油脂を抽出し、これを精製・改質して燃料とします。

図 10-2-2 微細藻類からの燃料製造プロセス(出典:国土交通省・経済産業省「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会でのバイオジェット燃料利用に関する検討について」(2017))

 微細藻類の探索では、以下の 1 ~ 11 を考慮する必要があります(松本ら 化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016)。1 ~ 3 はわかりやすいですが、屋外培養だと夏場の強光・高温に耐える必要がありますし(4)、攪拌で細胞壁が壊れてしまうようだと困ります(6)。実用に耐える「タフ」な株を見つけ出すことはかなりたいへんな作業です。

  1. 速い生育(培養)
  2. 高いオイル含有量(抽出)
  3. 高い光合成能力(培養)
  4. 強光・温度耐性(培養⇐野外)
  5. 塩濃度適用性(培養)
  6. せん断応力耐性(培養)
  7. 付着性無し(培養)
  8. 重く、大きな細胞(回収)
  9. 細胞壁が弱い(抽出)
  10. オイル組成(精製)
  11. 雑菌汚染耐性(培養)

 つぎに培養ですが、大きく分けてオープンポンドレースウェイなどの「開放系」とチューブリアクターフラットパネルなどの「閉鎖系」に分けられます。開放系は屋外の水深が 30 cm 程度の池型の培養設備で、コストが安いこと、生産量が大きくできることがメリットですが、細菌、カビ、他の藻類などが混じりこむコンタミリスクがあります。また、屋外での開放系ですから気象条件に左右されることになります。一方の閉鎖系は屋内で主に人工光源を用いて培養する「フォトリアクター」で、コンタミリスクが小さく、また装置が立体的になるため設置面積が小さいのが特長です。屋内ですから、気象の影響も受けません。問題は生産量が小さいことと、コストが開放系より高いことです。

図 10-2-3 微細藻類の培養設備

日本における開発状況

バイオジェット燃料開発

 前述のように微細藻類からの燃料合成は、まず「バイオディーゼル燃料」を対象として進められたのですが、カーボンニュートラルが叫ばれるようになり、ディーゼル車も削減・将来的には廃止の方向へと向かうことから、新たな対象となったのが「ジェット燃料」です。

 持続可能な航空機燃料、Sustainable Aviation Fuel の頭文字を取って SAF と呼びますが、微細藻類を SAF の製造に使おうという考えです。国連専門機関である国際民間航空機関(ICAO; International Civil Aviation Organization)は、長期的な低炭素化目標を策定し、その達成に SAF の導入が不可欠としています。

 以下は経済産業省資源エネルギー庁ホームページの記述です。

輸送部門において、バイオ燃料には大きく分けて 3 つの分類があります。
1 つ目がガソリン代替となるバイオエタノール、2 つ目が軽油代替となるバイオディーゼル、3 つ目がジェット燃料代替となるバイオジェット燃料です。

バイオジェット燃料とは、微細藻類や木質系セルロース(木材チップ、製材廃材や林地残渣)、などといったバイオマス原料をもとに製造される航空燃料をいいます。
航空輸送分野における CO2排出量の削減目標量について、国際民間航空機関(ICAO)において、航空輸送分野における 2021 年以降の CO2 排出量は 2019 年から 2020 の平均 CO2 排出量(基準排出量)に抑えることが目標とされています。
CO2 排出量削減の対策方法には航空経路の改善、航空機の機体軽量化等の改善が考えられますが、特に再生可能代替航空燃料の活用が注目されています。

そのため、我が国では 2017 年からバイオジェット燃料製造の一貫製造プロセスの実証事業に取り組み、微細藻類、木質セルロースを原料としたバイオジェット燃料製造の技術開発に取り組んでまいりました。

2020 年度からは微細藻類、木質セルロースに加えエタノールを原料とした製造技術の技術開発などにも取り組む予定です。

は経済産業省資源エネルギー庁 https://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/koudokahou/biojetfuel.html

 ということで、バイオジェット燃料をターゲットとした開発が行われています。さらに 2017 年には、「2020 年オリンピック・パラリンピック東京大会をメルクマールとしたバイオジェットフライトの実現」が経済産業省・国土交通省共同のテーマとなります(図10-2-4)。

図 10-2-4 微細藻類活用による燃料生産システム(イメージ)
出典:国土交通省・経済産業省「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会でのバイオジェット燃料利用に関する検討について」(2017)

2017 年時点での微細藻類燃料の開発状況

 2017 年時点の開発状況を示す資料が公開されています(図 10-2-5)。NEDOの「戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業」が 2010 年から実施され、 IHI、電源開発、デンソー、大日本インキなどが、それぞれ異なる微細藻類を用いて参加しています。加えて、土着藻類を用いた「福島再生可能エネルギー次世代技術開発事業」も実施されていました。

図 10-2-5 2017年時点の微細藻類燃料の開発状況
出典:国土交通省・経済産業省「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会でのバイオジェット燃料利用に関する検討について」(2017)

 一番進んでいたのが IHI・ちとせ研究所・神戸大のボツリオコッカスを用いる技術で、100 m2 規模での屋外安定培養に成功したのち、鹿児島県で 1500 m2池にスケールアップしていました。そこで、2017 年度から、一貫製造プロセスに関するパイロットスケール試験を他の技術開発とともに行う NEDO の「バイオジェット燃料生産技術開発事業」が開始されました。なお、この事業は概要に「バイオジェット燃料製造技術を 2030 年頃までに実用化し、利用促進・普及を通じて、2030 年以降の更なる航空分野における二酸化炭素等の温室効果ガス排出量を削減するため、ガス化・FT 合成技術や微細藻類培養技術、ATJ 技術等のバイオジェット燃料製造技術開発を行い、2030 年頃までに商用化が見込まれる製造プロセスを確立する」と書かれていて、微細藻類以外の複数の技術開発を含んでいます。技術の詳細については NEDO TSC Forsight vol. 37 の「次世代バイオ燃料(バイオジェット燃料)分野の技術戦略策定に向けて」をご覧ください。

微細藻類からの燃料でジェット機を飛ばす!

さて、技術開発は 2017 ~ 2020 年度まで実施されています。「事業原簿」が公開されていますので詳細はそちらをご覧ください。要点はつぎの通りです。

  1. 高速増殖能、炭化水素油の高含有量、大粒径・浮上性、という特長を持つ藻株「高速増殖型ボツリオコッカス(Hyper-GrowthBotryococcus braunii、以下、HGBb)」を利用して、開放型池での安定培養、ろ過または浮上濃縮法による収穫・風乾による自然乾燥、というプロセスに、乾燥藻からの抽出・改質工程を加えた純バイオジェット燃料一貫製造を行った。
  2. HGBb の大量培養を、熱帯で安定した気候であるタイにおいて実施するために、土とシート材を使った簡易な池造成により、1.5 ha 規模まで屋外開放型培養池の拡張造成・整備を完了した。
  3. 培養池撹拌機構を設置し、培養速度の改善を図った結果、藻油生産速度 3 ~ 4 g 藻油/ (m2・d)が得られた
  4. 低コスト化要素技術開発として、培地成分のうち窒素、リンの培地成分の見直しを行った結果、増殖速度に違いは見られず、培地費用を約 1 / 10 に低減する事ができた。
  5. HGBb 乾燥藻体から抽出油を作成し、改質試験において、飽和化から水素化分解の反応器での各種条件での処理・評価を完了し、条件を決定し、2019 年度新たに制定された Fast Track プロセスを用いた認証取得方法において、ASTM での小・大委員会での投票を経て、2020 年 5 月に新規のカテゴリーである ASTM D7566 Annex 7 (HC-HEFA SPK)の認証を取得した。国内企業による、新規の Annex 認証取得は、初めてである。
  6. 藻類残渣の利用として、セメント製造プロセス中の燃料への適用を検討し、石炭と藻類残渣の混合物は、石炭のみの粉砕の場合と同様に粉砕されることを確認した。
  7. HGBb の核ゲノム解析を行った結果、ゲノムサイズは 192 Mbp であり、既知の遺伝子情報を基に、油脂生産向上に資する Botryococcene や Squalene などのオイル合成最終段階の酵素遺伝子の遺伝情報を取得した。
  8. HGBb 培養池周辺の自然界の捕食者に与える影響を評価するため、HGBb 存在下で動物性微生物と水生動物の飼育実験を行った。動物性微生物は、HGBb を捕食しなかった。水生動物は、対照区のクラミドモナスを消化したが、HGBb を消化しなかった。以上より、HGBb の動物性微生物と水生動物に対する急性・慢性毒性はないものと考えられた。
  9. 製造された純バイオジェット燃料について、デモフライトに向けた調整を進めている。

 この 5 番目の ASTM (米国試験材料協会)規格の部分について補説しますと、航空燃料の製造方法及び原料の国際規格は ASTM International が策定していて、従来の民間ジェット燃料規格(JetA-1 他)は ASTM D1655 を満足することが要件となっているのですが、2009 年に代替ジェット燃料(SAF)の要件を定めた D7566 が策定され、D7566 の Annex (図 10-2-6)に規定された原料・製造方法を満たし、かつそれを従来型のジェット燃料と一定の比率以下で混合することで、D1655 と同等に取り扱うことが可能になると定められています。

図 10-2-6 ASTM D7566 Annerx (出典:国土交通省航空局「航空分野におけるCO2削減の取組状況」(令和3年4月))

 では、微細藻類からのバイオジェット燃料でジェット機は飛んだのか? 下記がそれに関するニュースリリースです。

微細藻類から製造したバイオジェット燃料を国内定期便に供給|2021年度|ニュース|株式会社IHI

 コロナで 1 年延期された東京オリンピックが開催される 2021 年の 6 月 17 日に JAL と ANA それぞれ 1 便がこの燃料を搭載し、飛行しています。

 このように無事ジェット燃料として使えることが証明されましたが、問題はコストです。現在のジェット燃料の価格は 1 L あたり 100 円、それに対して SAF のコストは 3 ~ 4 倍といわれます。図10-2-7 は SAF についてのまとめですが、国交省は 2030 年時点で本邦エアラインによる燃料使用量の 10 % を SAF に置き換えるという導入目標を発表しています。また、これに向けて、2030 年頃には既製品と同等の 100 円台/ L までニートの製造コストを低減し、実用化を目指すことが求められています。SAF の原料・プロセスとしてはいろいろなものがありますので、今後の実用化をふまえて熾烈な競争が繰り広げられるものと予想します。

図 10-2-7 SAFの概要(出典:環境省「持続可能な航空燃料(SAF)について」(令和4年6月)

(更新 2022/10/31)

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