第2章海洋と気候変動 コラム2.1 IPCCとは何か?

 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)は、1988 年に世界気象機関(WMO)国連環境計画(UNEP)により設立された気候変動に関連する科学を評価することを目的とした国連の組織で、現在の参加国は 195 か国、事務局はスイス・ジュネーブにあります。IPCC の目的は、すべてのレベルの政府に気候政策の展開に役立つ可能性がある科学情報を提供することにあり、 IPCC の報告書は国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)などの気候変動に関する国際交渉に対して重要な知見としてインプットされます

 図コラム 2.1.1IPCC の組織構造を示していますが、IPCC の主体は 195 か国の加盟国政府の代表からなるパネル(委員会)であり、このパネルが開催するIPCC 総会です。パネルは科学者のビューローメンバー( IPCC 議長・副議長、3 つの作業部会及び国別温室効果ガスインベントリータスクフォースの共同議長・副議長)を選任し、ビューローメンバーから提示された報告書概要を審議・決定し、科学者によって執筆された報告書の内容を吟味し、必要に応じて修正を求めた後に承認するのです。この意味で IPCC の報告書は科学者が自発的に作った科学的な報告書というよりは、国際交渉時に使われることを意識した、各国政府によって承認された報告書なのです。

 IPCC が作成する報告書には評価報告書(assessment report)特別報告書(special report)、及び方法論報告書(methodology report)の 3 つがあります。

 評価報告書は、気候変動、その影響ならびに将来のリスク、及び気候変動の進行速度を緩和するための諸策に関して、科学、技術、ならびに社会経済面からの知見を定期的に評価しているもので、最新のものは 2014年 に発表された第 5 次評価報告書です。評価報告書は、気候変動の自然科学的根拠について検討する第 1 作業部会気候変動の影響・適応・脆弱性について検討する第 2 作業部会、及び気候変動の緩和について検討する第 3 作業部会の 3 つの作業部会(working group、WG)に分かれて執筆され、さらに全体を 1 つにまとめた統合報告書(synthesis report、SYR)が作成されます。表コラム 2.1.1 にはこれまで公表された評価報告書と第6次評価報告書の予定を示しています(既発表報告書の公表年は統合報告書の公表年のみを記しています)。現在、IPCC は第 6 次評価報告書の作成サイクルに入っており、2022 年の 4 月に統合報告書が公表される予定になっています。

 特別報告書はパネルが必要と認めた個別のトピックスについてまとめた報告書で、表コラム 2.1.2 に示すように現在までに 14 作られています。また、方法論報告書温室効果ガスインベントリーを作成するための実践的ガイドラインを提供するものです。

図コラム2.1.1 IPCCの組織
表コラム 2.1.1 IPCCの評価報告書
表コラム 2.1.2 IPCCの特別報告書

 最後に、評価報告書の作成プロセスについて、簡単に触れておきましょう。 まず、報告書を作成する執筆者や査読編集者を、各国政府からノミネートされた科学者リストを基にビューローメンバーが選定します。つぎに執筆者は、原則、評価期間中に発表された査読論文を評価・引用して報告書のドラフトを作成します。このドラフトは専門家レビューや政府レビューを経て修正を繰り返し、最終ドラフトが作成されます。最終ドラフトには 2 種類の要約が添付されています。1 つは政策決定者向け要約(summary for policymaker, SPM)、もう 1 つは技術要約(technical summary, TS)です。SPM は WG の総会や IPCC 総会で一行ずつ審議され、修正や加筆を施したものが、全会一致で承認されます。一方、本文各章と TS は SPM の表現等と整合性が取れるように、必要に応じて編集上の修正を加えるという了解のもと受諾されるのです。

 先に「国際交渉時に使われることを意識した、各国政府によって承認された報告書」であると述べましたが、この性格のために、IPCC 報告書にはさまざまなバイアスが持ち込まれる可能性があります。特に可能性が大きいのは SPM においてです。IPCC の評価報告書全体は 2000 ページを超える膨大なものですから、なかなか全体を読むことができません。そこで、SPM や TS が用意されているのですが、何を捨て何を残すかという点でバイアスが含まれる可能性があります。また、SPM は総会において修正・加筆されますので、少しでも自国に有利な表現にしようと壮絶なバトルが繰り広げられます。総会の土壇場でいくつかの国の政府が介入した結果、大きな変更がなされたため、「政策決定者(summary by policymaker)による要約であって、政策決定者向け要約(summary for policymaker)ではない」と揶揄されるような事態も起こっています。

(更新:2021/01/31)

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