第2章海洋と気候変動 2.6 温暖化の予測と海洋の変化

 ここでは今後温暖化がどのように推移していくかについての予測と、その時、海洋がどう変化しているのかについて検討します。

気候モデルと気候の将来予測

 複雑な気候システムの予測は、気候モデル(climate model)を用いたコンピュータ・シミュレーションで行われています。ここでいう気候モデルとは、気候システムを構成する様々な要素を物理法則に従って定式化し、コンピューターによって擬似的な地球を再現しようとする計算プログラムです。世界をグリッドに区切り、グリッドごとに気温、風量、水蒸気等の時間変化を物理法則に従って計算していきます。気候の将来予測は、100年を超える長い期間が対象ですので、熱が長期間蓄積される海洋の流れや、海洋と大気の間での熱や水等の移動が重要になります。ただし、現在の気候モデルでは、まだ現実の大気や海洋の運動を完全に再現できていません。ですから、計算結果に気候モデル特有のバイアスや不確実性が現れます。各国の研究機関が開発した様々な気候モデルの出力結果を相互比較する結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP29)が動いています。

気温と海水温の将来予測

 では、気候モデルを使って予測された将来の気温を見てみましょう。図 2.11 は IPCC が 2009 年 9 月に 発表した海洋・雪氷圏特別報告書(Special Report on the Ocean and Cryosphere  in a Changing Climate、SROCCと略す)にある気温変化予測の結果です。

図2.11 将来の気温変化の予測
IPCC Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate (SROCC) を基に作成

 図の(a)は世界平均地表気温(global mean surface air temperature)、すなわち海洋と陸域の表面近傍の気温、( b )は世界平均海面水温(global mean sea surface temperature)、すなわち表層の海水温で、いずれも 1986~2005年の平均値に対する偏差を2100 年まで表したものです。2005年までは過去の結果、 2005年以降はモデルを用いた予測値ですが、ここに RCP 2.6 とか RCP 8.5とか書かれています。

 このRCPRepresentative Concentration Pathways の略で、代表濃度経路シナリオです。つまり、図2.11のピンクと青の部分ではシナリオが違っていて、大気中の温室効果ガス濃度を変化させて放射強制力を変えているのです。IPCC は放射強制力が異なる 4 つのシナリオを用意しています。 これが RCPシナリオです。 工業化以前(1750年)と比較して放射強制力が21世紀末までに 2.6 W/m2 増加するシナリオRCP 2.6 で、 同様にして放射強制力の増加が 4.5、6.0、及び 8.5 W/m2 となる RCP 4.5、RCP 6.0、及び RCP 8.5 シナリオが作られています。 そして、シナリオごとに気候変化の程度とその影響を予測していくのです。

 RCP 2.6 シナリオ は非常に低い強制力レベルにつながる低位安定化シナリオで、 RCP 8.5 シナリオ は非常に高い温室効果ガス排出量となる高位参照シナリオとなります。 図 2.11では、この両端の 2 ケースのみを表示しています。RCP 8.5 シナリオでは、2100年の気温はどんどん上昇を続けていき、1986年から2005年の平均値に対して4℃に達します。海水温の上昇は気温よりやや鈍く、3℃程度となっています。前にも示したように海洋は熱しにくく冷めにくいのです。一方、RCP 2.6 シナリオでは気温、海水温ともにそれほど上昇せず安定しています。つまり、私たちの努力で排出量を抑制すれば気温上昇を緩和できる可能性があるのです。

海面水位の上昇

 温暖化は様々な変化を引き起こします。図 2.12 にその一部をまとめています。 まず、海水の熱容量が増加し ( d ) 、これによって海水が熱膨張します。さらに、気温が上昇することによって氷が溶け始めます。その代表的なものが、グリーンランド氷床の減少( e )、南極氷床の減少( f )、及び氷河の減少( g )です。そして、これらの変化が 海面水位の上昇(sea level rise) を引き起こします ( m ) 。

図2.12 海面水位上昇とその要因
IPCC Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate (SROCC) を基に作成

 図 2.12の( m )は 2300 年までの海面水位の予測です。2100 年時点では、RCP 8.5 シナリオで平均 0.84 m、RCP 2.6 シナリオでは平均 0.43 m 海面水位が上昇すると予測されています。水位の上昇はその後も続き、2300 年には RCP 8.5 シナリオでは平均で 4 m 近くに達し、RCP 2.6 シナリオでも平均 1 m となります。 なお、図では不確実性を幅で表していますが、 RCP 8.5 シナリオ の海面水位の増加には大きな不確実性があることが見てとれます。これは、主要因であるグリーンランドや南極の氷床の減少に大きな不確実性が存在しているためです。

 島嶼国は水没の危機に瀕しています。例えばツバルは最も高いところこそ海抜 4 mですが、大部分は海抜 1 ~ 2 m ですから、1 m の海面上昇があると、国の大半が水没してしまいます。日本でも、朔望平均満潮位以下、すなわち満潮時の平均水位より低い地域は東京湾、大阪湾、伊勢湾だけで 577 km2 あり、ここに 404 万人の人々が暮らしています。海面水位が大きくなると、 満潮時水位より低い地域の面積は増大していきます。また、堤防を設置して水害から護るのですが、この堤防の拡充や、より高い堤防に作り替えるために多額の費用が必要となります。

その他の海の変化

 図 2.13 にその他の海洋の変化について示しました。(c)は海洋熱波が起こる日数の変化です。海洋熱波とは、極端に高い海面水温が長期間継続する現象です。縦軸に注意してください。1986 年から 2005 年までの平均値を基準とする倍数となっています。RCP 8.5 シナリオでは2100年には熱波が起こる日数が平均で現状の 10 倍を超えると予測されています。

図2.13 その他海洋の変化
IPCC Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate (SROCC) を基に作成

( h )は海洋表層の pH です。海洋は大気中の CO2 を吸収します。CO2 についても海洋は大気のバッファーの働きをしているのです。CO2 が水に溶解すると酸性、すなわち pH が小さくなる方向に動きます。 海洋の pH が長期にわたって低下する現象を海洋酸性化と呼んでいますが、 RCP 8.5 シナリオでは明らかに酸性化が進んでいます。また、( i )は深度が 100 ~ 600 mの部分の酸素濃度ですが、RCP 8.5 シナリオでは1986 年から 2005 年までの平均の 4 % 減少すると予測されています。

 海洋の酸性化酸素濃度の減少はそこに棲む生物に影響を与え、生物多様性の減少につながります。これについては、次回、温暖化の影響というテーマで再び検討することにします。

(更新 2021/01/25)

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