最後にレアアース泥について説明します。
レアアース泥は水深 5,000 m ~ 6,000 m の大洋底の一部に存在するレアアースを多量に含む微細な粘土鉱物から構成される深海底堆積物で、2011 年に東京大学大学院工学系研究科の加藤教授が、「国際深海掘削計画」のコア試料を分析し、タヒチ沖、ハワイ沖などの太平洋の海底に膨大な量のレアアース泥が分布していることを発見し、英科学誌ネイチャー・ジオサイエンスに発表したものです。これによれば、レアアース含有量は 600 ~ 2230 ppm で世界シェアの大部分を占める中国の陸上鉱床での含有量が 500 ppmですから、それより高濃度のレアアースが存在しています。
さらに、我が国の南鳥島周辺の大陸棚でも存在が確認され、レアアース含有率 6,600 ppm を超える「超高濃度レアアース泥」が海底下 2 ~ 4 m 程度の比較的浅い深度に存在していることが分かりました。南鳥島は日本で唯一太平洋プレート上に存在する島で、今から 1 億年以上前に南太平洋で誕生し、太平洋プレートの運動に伴って現在の位置まで移動してきたことがわかっています。
レアアース泥の成因としては中央海嶺(海底火山の大山脈)の火口から Fe-Mn の懸濁物質に富んだ熱水プルームが放出され、これが海流にに乗って西へ移動し、海水中の希土類含む様々な元素を吸着しながら沈積したものと思われます。さらに、その深海堆積物がプレートテクトニクスによって海底地殻とともに移動して、現在の分布状況となっていると考えられます。
南鳥島周辺の海域については、東京大学と JAMSTEC が深海調査研究船「かいれい」や海洋地球船「みらい」を用いた調査を実施し、海底面から 5 m 以内に、総レアアース含有量が 6,600 ppm を超える極めて高濃度のレアアース泥が存在し、有望地域 105 km2の資源量はレアアース酸化物総量 120 万トン、各元素毎の資源量は世界全体の年間消費量の Y : 62、Eu : 47、Tb: 32,Dy : 56 年分であり、有望エリアの全海域(約 2,500 km2)を合算すると、その資源量は 1,600 万トンを超えると報告しています(Takaya et al., Nature Scientific Report 2018)。
しかし、詳細な濃集帯の分布状況が不明であること、レアース泥の高粘度特性や 5,000 m を超える深海底からの採泥・揚泥技術が未確立であること、採取時の環境影響の及ぶ範囲等が不明であることなど、多くの課題があり、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」では各府省連携の推進体制のもとで、「SIP革新的深海資源技術調査」において、賦存量の調査・分析を行うとともに、水深 2,000 m 以深の海洋資源調査技術、生産技術等の開発・実証を進めることになっています。
さて、この SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)ですが、これは内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクトで、その第 1 期(平成 26 年度~平成 30 年度)には次世代海洋調査技術「海のジパング計画」(JAMSTEC)があり、続く第 2 期(平成 30 年度~令和 4 年度)に、この革新的深海資源調査技術プロジェクトが実施されています。取り扱うテーマは以下の 3 つです。
• テーマ 1:レアアース泥を含む海洋鉱物資源の賦存量の調査・分析(図 12-4-5)
• テーマ 2—1:深海資源調査技術の開発 (深海 AUV 複数運用技術、深海底ターミナル技術)
•テーマ 2—2:深海資源生産技術の開発(レアアース泥の採泥・揚泥技術) テーマ 3:深海資源調査・開発システムの実証(図 12-4-6)
さて、これらのテーマの開発状況(2021)が以下に公開されています。要点だけを示しますと、
https://www.sip2021.go.jp/docs/12_briefing_paper_SIP2021.pdf
- レアアース泥を含む海洋鉱物資源の資源量の調査・分析:南鳥島海域のレアアース概略資源量評価の目標を達成し、最終年度の 2022 年度に南鳥島沖 6000 m の深海に存在するレアアース資源の産業化を目指して、鉱区設定に向けての EEZ 内の更なる広域資源量調査や資源情報の精緻化を図るための計画の策定する
- レアース泥の採泥・揚泥技術:南鳥島沖レアアース資源の産業化に向けての採取に必要な海底生産システムの効率化⇒産業化への可能性を高めるため、より効率的な大水深掘削技術を開発し、実証⇒ 2022 年夏に予定する 3,000 m 海域の 65 トン/日の揚泥試験の成功
この「 2022 年夏に予定する」とある「揚泥試験」ですが、「茨城沖水深 2,470 m の海域で 2022 年 8 月 12 日から 9 月 2 日にかけて、海底 3 か所の採鉱サイトにおいて上記の作業を実施し、1 日あたりに換算して約 70 トンの堆積物の回収に成功しました」とのことです。詳しくは下記をご覧下さい。
参考文献
- 国交省「海洋開発工学概論海洋資源開発編(改訂第一版)」(2018)
- 内閣府科学技術・イノベーション推進事務局「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 革新的深海資源調査技術研究開発計画」(2021)
(更新 2022/11/09)