第13章 CO2の回収・貯留(CCS) 13.5 CCU、BECCS、さらにDACCS

 最後に、CCS と類似の CCUBECCS、及び DACCS について簡単に紹介しておきます。

CCU(CO2 回収・利用)

 CCU は “Carbon dioxide Capture and Utilization” の略で日本語では「CO2 回収・利用」となります。”Utilization” の代わりに “Use” が使われることもあります。また、”CCUS” という言葉がありますが、これは CCS と CCU を合わせた総称です。

 さて、CCUですが、回収したCO2を利用すればいいのですから、とても範囲が広い技術です、整理するとつぎの様になります。

そのままの形で利用するもの

  • 増進回収(EOR、EGR)⇒CO2 貯留を伴う
  • 食品産業 (炭酸飲料)
  • 超臨界CO2(抽出剤等)
  • その他:冷却用(ドライアイス)、溶接用(アルゴンの代わりにシールドガスにCO2を使ったアーク溶接)

化学的・生物化学的な変換を伴うもの

  • 燃料(ケロシン、ディーゼル、メタノール、エタノール、メタン等)
  • 中間化学品(ギ酸、マレイン酸、尿素、カルバメート類、合成ガス等)
  • ポリマー(ポリカーボネート、ポリウレタン等)
  • 鉱物固定化(コンクリート、骨材、無機炭酸塩等)
  • 藻類培養(オイル産出・変換)

 13.2、13.3で出てきた EOR や EGRですが、これらは石油や天然ガスの生産量を増やすために CO2を利用しているので CCU と言えますし、地下に CO2 が貯留されるので CCS とも言えます。現状で CCU の実施量がもっとも大きいのはこの EOR です。つまり、「そのままの形で利用するもの」の中では、EOR を除くとみんな量が少なく、これからも量が爆発的に増大するとは考えにくいです。

 いま、CCU に期待されているのは、下の「変換を伴うもの」の方です。この場合、「鉱物固定化」を除けばみんな有機物で、最後に廃棄物を燃やせばまた CO2 が出てしまいます(図 13-4-1)。これで意味があるのだろうか? と疑問に思う人もいるかもしれません。

図13-4-1 CCSとCCUの比較

 この点についてメタン化を例に考えてみましょう(図 13-4-3)。地下から天然ガスを採取します。天然ガスの主成分はメタンですので、天然ガスの代わりにメタンとしておきます。メタンを燃料として使うと CO2 が排出されます。これを水素で還元して、メタンに戻します。つまり CCU ですね。この得られたメタンの炭素はリサイクルされたものです。つまり、新たに地下から採取する量が減ります。つまり、化石燃料の節約になり、排出される CO2 は減ります。2 回リサイクルする例を示していますが、2 回分のメタンが節約できます。これを繰り返せば、どんどん CO2 排出量が減っていきます。どこかおかしくないですか? そう、CO2 をメタンに変えるのに水素が必要で、水素を作るときにエネルギーが必要だから、それに伴う CO2 排出があるのではないか! その通りです。この話のポイントは、この水素がカーボンフリーな水素だということです。つまり、再生可能エネルギーで水を分解して作った水素(グリーン水素)製造時に発生する CO2 を CCS で取り除いた水素(ブルー水素)が必要です。また、メタン化の際に加熱が必要ですから、そこもカーボンフリーな熱源を使う必要があります。水素を作る際に排出される CO2 とメタン化の際に発生する CO2 の合計がメタンを燃焼して排出される CO2 より小さければ、その CCU は意味があることになります。

 この話、電気自動車がカーボンフリーな電気が供給されて初めて意味を持つのとと同じ構造で、CO2 排出を別なところに転化しているのです。それが水素の製造なのですね。再生可能エネルギーを使う場合には、十分な再生可能エネルギーが供給可能なのかという問題、CCS を使う場合には貯留可能量が十分あるかという問題を解決する必要がありますCCU が人気なのは、できた製品が売れて収益が得られるからです。CCS だと炭素に価格が生じない限り、何の収益も得られません。そのような事業を誰も自発的に実施しようとは思いません。

図13-4-3 CO2のメタン化のCO2排出削減効果

 CO2 から製品への変換にいつもエネルギーが必要かというとそういうわけではありません。図 13-4-4 に炭素を含む化合物の標準生成熱を示しますが、この図の CO2 より上にある化合物に変換するにはエネルギーを加える必要があります。一方、下方にある炭酸カルシムを作る反応はエネルギーが不要で自発的に進みます。ですから、さきほどのリストに出てきた「鉱物固定化」はとても有効な CCU 技術といえます。

図13-4-4 炭素を含む化合物の標準生成熱

BECCS

 つぎに BECCS ですが、これは「バイオエネルギー」+「CCS」のことです。つまり、カーボンニュートラルなバイオマスの燃焼から排出された CO2を CCS で隔離することから、負の排出(ネガティブエミッション)技術に位置づけられます(図 13-4-5)。

図13-4-5 BECCSの概念

 技術ポテンシャルは、IPCC の第 5 次評価報告書では、2050 年時点で 3 ~ 20 GtCO2/年、IEAGHG によれば 10 G tCO2/年です。大規模な BECCS 実施にはつぎのような課題があります。

  1. 土地と水をめぐる食料生産との競合:広大な土地と大量の水が必要となる
    • エネルギー作物の場合、2 ℃ 目標到達シナリオ(2100 年までに 33 億 tCeq/年の炭素回収)で必要な土地は総農業用地の 7 ~ 25 %、耕作物および永久作物用地の 25 ~ 46 % にあたり、これら必要な土地は、耕作放棄地や限界土地の 2 ~4 倍であり、BECCS 等に広大な生産力ある土地を利用することは、食料やバイオエネルギーのための土地に影響を与えるだけでなく、生態系サービスにも影響を与える事が予測される※
    • 2100 年までに 33 億 tCeq/年のネガティブ・エミッションを実現するには、現在人間が利用している淡水の最大 3 % の追加が必要となる※
  2. 現実的にはバイオマスのストック可能量、エネルギー密度の小さなバイオマスの輸送(コストから輸送距離が制限)、小規模エネルギー転換設備が低効率、バイオマス産地と貯留場所のマッチングが課題となる

※Pete Smith et al;” Biophysical and economic limits to negative CO2 emissions”, NATURE CLIMATE CHANGE | ADVANCE ONLINE PUBLICATION (2015)

DACCS

 最後に、DACCS です。DAC ということもあります。DAC は “Direct Air Capture” の略で、いい日本語がありません。経産省は「空気からの CO2 分離回収」と呼んでいます。DAC だけでは「回収」だけですので、回収した CO2 を貯留するという意味を明確にするために、「CS] を後につけています。概念は図 13-4-6 で、大気中にわずか 0.04 % しか存在しない CO2 を直接回収して、地中貯留する技術です。BECCS と並んでネガティブエミッション技術に相当します。

図13-4-6 DACCSの概念

 この技術の問題は「回収コスト」です。図 13-4-7 は自然界に存在する物質の濃度と価格の関係をまとめたものです。存在する濃度が低いほど、当然価格が高くなります。金・プラチナなどは量がとても少ないので高く売れるわけです。このグラフに CCS とAir Capture(つまりDAC)をプロットするとどうなるか? CCS が 10-2 、DAC が 10 あたりですから、価格が 1,000 倍違うということになります。

図13-4-7 物質の濃度と価格
Herzog 2011: M. Ranjan,; H. J. Herzog, GHGT10, Energy Procedia 4 (2011) 2869–2876

 では、どのくらいのコストと試算されているのか? 回収コストだけですが、つぎのような数字がありました。

  • $ 40 – 600 / tCO2(McLaren, D., 2012)
  • $ 94 – 232 / tCO2(D. Keith et al., 2018)
  • 35.4 円 / kg-CO2(国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センター 2020)

 CCS における回収コストを約 4,000 円 / tCO2とすると、1ドル=120 円として、上から 1.2 ~ 18 倍、2.8 ~ 7 倍、8.9 倍ということになります。1,000 倍違うと絶対に無理だと思いますが、このくらいのコスト差だと可能性があるようにも思えます。

 先に出てきた BECCS ですと、バイオマスの成長には水が必要であるため、降水量の小さな地域には適用できませんが、DAC の場合にはその制約はありません。貯留層があれば、砂漠の真ん中にでも建設することができます。

 13 章の最初に「それでも残る CO2 については、IPCC の報告書にもあるように CDR(Carbon Dioxide Removal)、つまり大気中から CO2 を除去する技術を導入することになります」と書きました。この CDR 技術が BECCS であり DACCS というネガティブエミッション技術です。今後の動向が楽しみですね。

 

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