この連載講座の主役は「海」です。この主役を中心として、「エネルギー」「環境」「技術」の関わり合いを考えていこうというのが本講座のテーマです。では、なぜ「海」が主役なのでしょうか?
海は私たちの住んでいる地球の面積の7割を占めており、ここに地球上の水の 94 % が蓄えられています。このため私たちの生活と密接な関わり合いがあるのです。私たちは船で海を移動し、石油や工業製品を運搬し、海から得た魚介類に舌鼓をうち、また海の風景に癒やされ、海岸で海水浴を楽しみます。
また後で詳しく述べたいと思いますが、海の役割について簡単にまとめてみましょう。
- 海は地球の熱源である:地球には太陽からエネルギーが降りそそいでいますが、水は大きな熱容量を持つため、太陽エネルギーは主に海に蓄積されています。大気と海との間では熱のやりとりが行われ、海は大気の大きな熱源として働いています。
- 海は気温変化を緩和する働きをしている:海は大気の熱源であり、大気の温度変化を緩和する働きをしています。また、海は大気中に放出された二酸化炭素を吸収し、地球温暖化を緩和する働きもしています。
- 海はエネルギーを蓄えている:地球に降り注ぐ太陽エネルギーは、海に「熱」として蓄えられますが、そればかりでなく、「波」や「海流」といった力学的エネルギーや、海藻類などの「バイオマスエネルギー」にも形を変えていきます。さらに、地球と月や太陽などとの間に働く引力もまた、水が流体であるが故に「潮汐」や「潮流」に形を変ええるのです。
- 海は様々な生物を養っている:太陽の恵みによって、海には多く生物が育っています。植物プランクトンや海藻が二酸化炭素を吸って成長し、それを餌に動物プランクトン、そして様々な魚介類が育っていきます。豊かな海は水産資源の宝庫となります。
- 海底には多くの資源が眠っている:また海は広大で、海底にはコバルト、マンガンなどの鉱床が存在しており、また、石油・天然ガスやメタンハイドレートなどのエネルギー資源が眠っています。
- 海は交通・輸送の場である:さらに海は交通・輸送の場でもあります。私たちは昔から海を船で行き来してきました。昔は、人びとは帆船を使って航海し、現在は無数のタンカーが資源や製品を積んで海の上を往来しています。
このように私たちは海から多数の恩恵を受けています。しかし、一方、海が私たちに対して牙をむく時があります。東日本大震災での大津波は甚大な被害をもたらしましたし、台風における高波も私たちを苦しめています。
「海洋国ニッポン」と言われる様に、わが国は四方を海に囲まれており、管轄している領海、排他的経済水域の総面積は日本の国土面積の12倍もあり、世界でも第 6 位の広さを持っています。したがって、わが国は良きにつけ悪しきにつけて海と関係しています。海をうまく利用することが、極めて重要な課題であることは明らかでしょう。
本講座では、特に「エネルギー」の観点から、海について考えていきます。海の持つエネルギーにはどのようなものがあり、どうすれば利用可能となるか、また、それにはどんな課題があるかです。また海にある資源や排出された二酸化炭素の海を利用した処分法についても学びます。
さらに、海は気象とも密接に関係するため、地球環境への影響についても考えていきたいと思っています。「地球温暖化問題」は、人類最大の課題であり、現在、ホットな議論がなされているところです。海がどのように地球温暖化と関わり合っているかについて学び、私たちが今後何をしなければならないのかについて考えましょう。
この講座では「エネルギー」「環境」「技術」に関わる広範なテーマを扱うことになります。それぞれのテーマについて、あまり専門的になりすぎることなく、その本質をわかりやすく説明していきたいと考えています。また、これらのテーマは現在の社会と密接に関わっていますので、その関わりが見通せるようにできるだけ工夫してみたいと思います。 章立ては次の通りです。
- 海洋についての基礎
- 海洋と地球環境
- エネルギーについての基礎
- 再生可能エネルギー
- 海域再生可能エネルギー概論
- 海域再生可能エネルギー各論(1)洋上風力発電
- 海域再生可能エネルギー各論(2)波力発電
- 海域再生可能エネルギー各論(3)潮汐・潮流・海流発電
- 海域再生可能エネルギー各論(4)海洋温度差発電(OTEC)
- 海域再生可能エネルギー各論(5)海洋バイオマス利用
- 海域資源各論(1)海域油田、メタンハイドレート
- 海域資源各論(2)コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、レアアース泥、熱水鉱床
- 海域利用各論 二酸化炭素回収・貯留(CCS)
- 総括と展望
(更新 2022/10/14)


